私が私で作られた理由

 ナギさん達が出て行って静かになった部屋で、隊長が黙々と書き物をしているので私は椅子に座って隊長の書き物が終わるのを待っています。


「・・・・」


「・・・・」


・・・・結構気まずいです


 どうしてこうなったかと言うと、ブリーフィングが終わって隊長がそれぞれに役割を振り分けていた時にFAXが再び鳴って紙が印刷されたので、それを拾って中身に目を通した隊長が私に部屋に残るように指示したので隊長が始末書を書き終わるのを待つことになりました。


 飲み物を持ってこようとしましたが、隊長のコップはおかわりを必要としていないほどコップに飲み物が注がれています。

 ですので、私は椅子に座って隊長の書き物が終わるのを静かに待っているわけですが、この無言の空気が辛いです。


 それに隊長のペンもあまり進んでいませんし、それにこっちをチラチラ見ています。


 でも今書いている始末書は、先日私が捕まっていた所に隊長達が突撃した件についての始末書を書いているので、無関係ではないんですし私の不注意が招いたことですのであまり話しかけるのも駄目な気がします。


 ここは大人しく書き終わるのを待ちましょう。


 と言うか私待つだけでやることないので、私必要なのでしょうか


「・・・何か悩んでいるのではないか?」


「え?」


 突然隊長は書類を書いている手を休めずに私に話しかけてきました。


「昨日から顔が暗いからな、何か思い悩んでいるのではと思ってな」


 隊長に言われて少しドキリとしました。


「・・・よくわかりますね」


「隊長だからな。これでも皆の事をよく見ているつもりだ」


「流石隊長ですね・・・隊長」


「なんだ?」


「私は人を殺そうとすると躊躇ってしまいます。最初の仕事の時に転移者を撃つ時に引き金を引くのをためらってしまいました。先日もあまり考えずにオリアさんを助けてしましました」


 最初の仕事の時に私は転移者に照準を構えたけど、すぐに引き金を引くことが出来なかった。次の仕事は基本的にサポートだったので人に当てるときは見えなかったり防がれたりしてあまり当たらなかったので実感がわきませんでした。オリアさん達は出さなくても脱出は出来たと思うので出してしまったのは結局私が助けたいとどこかで思ったからなのでしょう。


 自分の甘さが、この思いや人を殺す時に躊躇ったりするのを生み出しているのなら、私はこの仕事が合っていないのではないかと考えてしまいます。


「隊長、私は間違っているのでしょうか?」


「いや別に間違ってはいないぞ」


 隊長は書く手を止めて私の方を見ました。


「人を殺して罪悪感を感じて、助けたい人を助けようとするのは自然なことだ。仕事には必要のないことかもしれないが、私達には必要な物だ」


「でも、私は人を撃つのに躊躇ってしまいます。私は本当にこの仕事に向いているのでしょうか?」


 隊長は私の話を聞いた後に目を閉じて少し考えていましたが、やがて目を開けて私の方を見ました。


「アイビーその考えは、少し無理がある。そもそもこの仕事に向いている人なんてほとんどいない」


「『ソ』から生み出された私達は少なからず感情がある。つまり私達は誰もこの仕事には向いていない。『ソ』から感情のない生命体は絶対に生まれないのだ」


「それにアイビーの考えだとこの仕事に合っているのは感情の無い物、機械とかそういう類のものと言うことになる。実際に機械を向かわせたこともある。結果はハッキングされて奪われ改造されてこっちを襲ってきた。だから私達は全てを機械に任せるのは辞めることにしたんだ」


 もう機械に任せようとしていたんですね。結果は駄目だったようですが 


「『ソ』にも意思はある。神を生み出して世界を管理させたりするなど知性を感じる所もあったりする。多分私達が無個性で作られないのは『ソ』の意思が介入しているからだと考えられている」


「ならどうして、『ソ』は私達に感情を入れて作っているんですか?」


 排除したい相手を排除をするだけなら個性が無くても十分なはずです。むしろ感情がない方がミスも少なくないと思います。


「それは・・・私にもわからないが、私が新人だった頃、当時の隊長に私は同じように質問したことがあった」


 隊長は顔を上げて少し懐かしそうに話し始めました。


「『ソ』は俺達の個性を作っている途中に組み込んでいる。俺達が人を殺している事に後悔して苦しんでいる様を楽しんでいるからだと俺は考えている。とカシュ元隊長は言っていたな」


 隊長が顔を上げて天井を見上げながら結構前の記憶だったのであろう話を思い出しながら話をしてくれましたが、言っている内容は全然微笑ましくないです・・・むしろ結構ひどい話だと思います


「つまり私が殺すのをためらっているのを楽しそうに眺めたりしているってことですか?」


「あくまでカシュ元隊長が言っていただけだがな。真に受ける必要はないぞ、実際カシュ隊長は結構ネガティブ思考であったからな」


 隊長の話を聞きながら私は言いようのない感覚に襲われました。私が最初の仕事の時に吐いたのをみて『ソ』が喜んでいたのかと思うと気持ち悪くなってきます。


「では、結局『ソ』が何を考えて私に性格を入れて作っているのかは分からないんですか?」


 私はそれ以上考えないようにして、隊長の話を聞きます。


「そうだな・・・『ソ』はこの世界で最初に生まれた存在であり最初の神を作って世界の模擬を作って神に管理するように渡したと思われている」


 この世界は『ソ』から始まって世界も全て生み出されている。実際に私達等が『ソ』から生み出されているので、それは間違いのない事実です。


「・・・ここまでは予想されているが、ここから先、何故『ソ』が私達を作るようになったのか、何故命を粗末にする神が出るようになったのかは不明だ」


「一番最初に作られた私達の先輩や神はすでに死んでおり、記録課も作られる前の記録は保管されていない。なぜ私達が作られたのかは結局謎のままなのだ」


「そうですか・・・」


「だが私は別に『ソ』に悪い感情はあまり抱いていない」


 私は結構驚きました。


「先ほども言ったように先ほどの『ソ』に対する考えは元隊長が言っていただけで、実際がどうなのかは私達にはわからない。しかし私達に個性や自我がなければこうしてアイビーと話すことも、人と話して分かり合うこともなかった。もし私達に自我や個性が無かったら、ただ指示を実行する機械のようになってしまったら、私達は前回の仕事の時に間違いに気が付かずに正規の勇者を殺してしまっていたかもしれない」


「それに私達は悩んでもいい、苦しんでもいい、その結果を踏みしめて前に進むことが出来るなら私達は成長することが出来る。私達は機械ではないのだから止まってもいいし後ろを見ることがあってもいい、その場にしゃがんでうずくまってもいい、最後に自分で前に進もうとする意志があるのなら問題ないと私は考えている」


「アイビーが人を殺そうとするのに慣れる必要はない、慣れないで欲しい、何なら私も足を止めてうずくまっている最中だ。隊長と言われて結構頼りにされている私ですら立ち止まるのだ、未だ新人のアイビーが悩むのは当然だ。悩んでもいい、葛藤してもいいでも最後には歩き出すことを忘れるなよ」


「隊長・・・」


「・・・なんか説教みたいになってしまったな。何が話したいのかよくわからないし、私も説教できる状態じゃないのにな・・・」


「もしかして隊長、私を励ますために、ここにいるように言ったのですか?」


 私がそう言うと隊長は少し恥ずかしそうに顔を背けました


「まぁ本当はもっとカッコいい事言おうとしたのだがな・・・思いつかなかった。すまない」


「いえ大丈夫です」


 隊長の言っていること、言いたいことは一度では理解しきれません、でも一部は理解できました。私の間違いも葛藤もなるべく受け止められるようにします。


「そうか、それと言いたいことがあるなら誰でもいいから言ってくれ。一人でため込むなんてことしたって良いことなど、あまりないからな」


「はい、そうします」


 隊長は少し微笑んだ後に再び書類の方を向いて書き始めようとしましたが突然手を止めました。


「あ、あとアイビーもう一つ言っていくことがある」


 隊長は思い出したように顔を再び上げて私の方を見ました。


「なんですか?」


「もし・・・もしだ。アイビーがこの仕事を辞めたいと思ったのなら、異動届を出せば別の所に配属されるぞ。・・・私はそうなってほしくないがな」


 私は少しきょとんとした後に少し笑ってから


「大丈夫です。でもまだ辞めるつもりはないですし理由もないです」


と答えました。


「そうか」


 隊長はそう言った後に顔を戻して書類を掻き始めました

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