ユグドラシル

「さて一通りの話は終わったのだが、もう一つ話しておくことがある」


 今のところ分かっている情報の共有が終わったので情報をまとめたり創造課に行って武器の調整をするのかと思いましたが今回はもう少し続くようです。


「前回ナギとセラが転移者から回収した物の解析が完了していたらしく、創造課から資料が送られてきていた」


 隊長は今までホワイトボードに貼っていた資料を回収して、新しく一枚の写真取り出してホワイトボードに貼りました。


「これは・・・注射器ですか?」


 隊長が貼った写真には赤い液体が入っている注射器のような物が写っています


「ああ注射器だ、ナギ達が戦った転移者は死ぬ直前にこれを使用したと言っていた」


 そう言えば前回の仕事でセラさんがこっちに戻るときに風呂敷と一緒に別の袋をナギさんに渡されていましたね。


 その注射器が袋に入っていて創造課から武器をもらうついでに渡していたのでしょうか?


「あの注射器の中身はドラゴンの細胞が培養された物で満たされておりこれを生命体に注入すると自身の細胞とドラゴンの細胞が融合して分裂を繰り返し、最終的に私達が戦ったあのドラゴンのような物になるものだと予想されている。実際にこれを誰かに打ち込むわけにはいかないからドラゴンになるとは確認が取れていないからな」


 そう言えば生き残った勇者さんが何とかドラゴンに似ているとか言っていましたね。もしかして、そのドラゴンの細胞が入っていたのでしょうか?


「そして今回一番見て欲しいのはここだ」


 隊長は注射器の真ん中にある木のマークを指しました。簡素ながら大木が描かれておりその周りを人が手をつないで囲っています


「隊長、このマークは?」


「このマークは結構前に壊滅させたSSSランク級組織『ユグドラシル』のシンボルだ」


「SSSランク級組織『ユグドラシル』・・・」


 初めて聞く組織名です。それにSSSランクなんて初めて聞きました。それに個人ではなくて組織なんですね。


「ああ、SSSランク認定されたのはこの組織だけあり、SSSランクが初めて定義された組織だ。というかこの組織が確認されるまでSSSランクなんてものはなかった」


 つまりそれだけ危険な組織だということですね。隊長は前回のドラゴンがAランク装備を使っていたのでSランクはあれ以上の武器を使っていると聞いているのにSSSランクとか想像できないですね。


「そうだ本来なら神たちが管理している世界を渡るのは不可能なはずなのだが、この組織は世界中から神から力をもらった転移者や転生者を集めていた組織だ」


 転移者や転生者を集めている組織ですか・・・


 一人でも世界を左右するほどの力をもっている人たちが集まっている組織とか、私できるなら関わりたくないですね。


「つまり反則級の力を持ったヤバイ人達の集まりってことですか~一体何の目的でそんな組織を作っていたんですか~?」


 セラさんが少し不安そうな声で隊長に質問しました。


 多分セラさんにも聞かされていなかったんだと思います。周りを見回すとセラさんと私しか知らなかったようでユッカさんとナギさんとバロックさんはあまり驚いてるようには感じません


「いや、この組織に最終目標はないんだ、一切な」


「え」


セラさんが少し間の抜けた声を出しました。


「あの隊長~?なんでその組織は最終目標がないんですか?普通の組織は私達みたいに何かしらの目標があって、それを目指して活動しているはずですよね?」


 この組織・・・でいいのでしょうか?は数多ある世界の管理をしている神様の管理が目的であり、特に私達は違反した神様が意図的に送り込んだ人を殺すことが目的です。


 いかなる組織であっても世界征服や宇宙の支配者になりたいとかの最終目標があるはずです。


 でも最終目標がない組織なんてあるんでしょうか?


「あの組織は所謂サークル活動のようなものだ」


 隊長は思い返すように前方の天井を見上げて思い返すように話し始めました。


「仮に誰かが世界征服をしたいと言ったとする。それを組織に参加している人の中から世界征服を面白そうや楽しそうと思った人が世界征服を手助けする。しかしそれが組織の最終目標になるのではなく、あくまで個人の願いを個人が手助けしているだけで合って、あの組織にトップはいなく、横だけに繋がっている組織であった」


「つまりその組織の構成員全てが思いつきを提案するトップであり、ある時は他の提案を手伝う下っ端と言うことですか?」




「そうだ、ある時は気まぐれに世界を滅ぼし、ある時は気まぐれに女を侍らせて責任を取らずに逃げたり全員と子供を作ったりした。そんな組織だったが当然存在することが許されることはなく、私達の最大戦力を持ちだして不自然な幸運すらもねじ伏せて壊滅させた」


「隊長も参加していたんですか~?」


「・・・ああ、参加して殺した。彼らには経緯には同情するものがあるが、彼らの行った行為は外道と表しても足りない。だから私たちに全て滅されたはずだったのに・・・」


「でも壊滅させることができたんですよね?そんな危険な組織を倒したのでその世界の人たちも手を挙げて喜んだんじゃないですか?」


 私がそう言うと隊長は顔をしかめて黙ってしまいました。


 ?なんでそんな顔をするのでしょうか?私だったら諸手を挙げて喜びますね


「いや、誰もいなかったっす」


黙っている隊長に代わってユッカさんが答えてくれましたけど・・・


「誰も・・・いなかった・・・?」


「そうっス。SSSランクを対処する場合は生命体に関する情や情けは一切不要っス、たとえ元々そこにいた住民であったとしても武器の射程圏内にいるなら皆殺しにするっス」


「な、なんで・・・」


「SSSランクので使用される武器は広範囲を高火力で薙ぎ払う代物だらけっス。俺たちの認識はできるッスけど無関係で無数にいる住人の把握なんて絶対に出来ないっス」


「でも・・・避難とかできなかったんですか?」


「避難なんてしたら、すぐ向こうにばれるッス。もし避難を妨害されたらこっちに犠牲が出て成功率が低くなってしまうッス。それにもしかしたら避難させた人の中に転移者や転生者が混ざっていたりしてしまうかもしれないっス。いつもの仕事でなら、一人か多くても5人くらいなので撃ち漏らしはありえないっスけどユグドラシルの時は3桁以上の転移者や転生者がいたっス、だから一々確認する暇がないので非難をさせることができなかったっス」


「・・・」


 でも、もっと他に無かったのでしょうか。そう言いたいですが他に考えが思いつきませんでしたし、今ああだこうだ言っても仕方ないのは理解できています。


 でも、それならなんで私は胸が痛くなってしまうのでしょうか・・・


 私は人を殺すために作られたはずなのに、何で人に感情移入してしまうんでしょうか・・・


 人に対して何も抱かない人であったのなら、最初の仕事の時に人を殺すのに躊躇うこともなく今こうして胸が痛くなることもなかったのに・・・・


「ユッカそれくらいにしておこう。私もあれには余りいい思い出はない」


「了解っス」


「話を戻すぞ。私たちは依然にユグドラシルを壊滅させた。だがその一部が逐電していたようだ。マークも完全に同じであることから同名の別組織である可能性は低い」


「そして活動も再開している様ですね」


 ナギさんが写真の注射器を指さして続けます


「あんな注射器は私達が壊滅させたときに無かったです。つまり組織が復活して、こんなものを作り始めた人達がいるって事ですね」


「そういうことだ。そしてまだ完全には復活していないと思われる」


「その根拠は?」


「目立った活動が報告されていないからだ」


「前の組織の時の彼らの活動は先ほど言った通りで、誰かが提案してから動き出す。しかし無数に近い他の部隊から彼らの活動が報告されていない。つまり・・・」


「まだ活動を提案している人が少ない、もしくは提案しているがまだ実験段階だから表立って活動していないと言うことですか?」


「・・・うん、そうだな・・・あっているぞバロック」


「現在調査部が居場所の特定を進めているが何分情報が少なすぎるのでしばらく進展はなさそうだな」


 「まだ、報告してから3程しか経っていません。そんなに早く転移者や転生者が見つかるならランクなんて存在しないですからね」


「もしかしたら、これから仕事中に出会う可能性がある。その場合はなるべく仕事を優先して、仕事が終わり次第そちらにも対応してほしいとの指示が出ている」


「了解しました」


「では皆これにてブリーフィングを終わる。これから指示を出すから終わり次第創造課に行って武器を調整してほしい」


 隊長は資料を机に置いて指示を出し始めました。

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