助っ人参上

「さて、どうしたものか」


ドラゴンが棒立ちになってのいる姿を、横から少し離れた所から見ながら考える。


あの竜の駆除に入ろうと足元に向かったのはいいが、騎士団がドラゴンの足元で攻撃している。


本気で騎士団の存在を忘れていた・・・


多分利害は一致しているが、だからと言ってはいそうですかとさっきまで戦っていた相手と手を取り合って仲良く駆除とはいかないだろうな。


「隊長どうしますか?」


ナギが横に並んで聞いてきた。


・・・本当にどうしたものか


駆除はしたいが騎士団と一悶着は免れないだろうな


こちらはセラが転移して一人減っているので、駆除の前に無駄な体力は消費したくない。


そう考えているとずっと棒立ちだったドラゴンが動き出した。


ドラゴンはもう一度咆哮した後に下の騎士団を一瞥し、邪魔だとばかりに前足で騎士団を薙ぎ払いそしてブレスを放った。


騎士団は残っているようだが、今の一撃で半数以上がドラゴンの攻撃の犠牲なったようで撤退を始めている。


・・・これならいけるのではないか?


「アイビー、ここからあのドラゴンを狙えるか?」


「え?届くと思いますけど、当たっても大した威力にはなりませんが?」


「立てなくてもいい注意をこちらに向ければいい」


今の所、知性が残っているのかは分からないがこちらに注意を向ければ、ある程度は向こうの損害は減るのではないだろうか?


騎士団は王都を守るように動いている。


私は転移者や転生者は仕事だから殺すが、他の人間はあまり殺したくない。


だから私達に注意が向けば私達は動きやすく、向こうは体勢を整えることができるのではないだろうか?


「わかりました」

「頼む、それとここからドラゴンまで距離があるから、こちらに注意が向いた瞬間にブレスが飛んでくるかもしれないので注意して欲しい」

「了解です」


アイビーがライフルを構えて撃ち始めた。


少し距離があり数発はそれてしまったが、弾はドラゴンに何発か命中した。


ドラゴンは鬱陶しそうに目を細めた後に、こちらを向いて口を大きく開けた。


「アイビー立てブレスがくるぞ!!各自散開して回避しろ」


アイビーが立ちあがったと同時に口に炎の揺らめきが見えてくる。


あんな図体から放たれる攻撃を防御するのは無理だろうから回避を優先する。


私達は作戦の時と同じペアで三方向に別れた。


私とユッカはドラゴンに接近し、ナギはドラゴンの正面に回るように移動、バロックとアイビーはドラゴンの後ろに回るように移動した。


一番被弾の可能性が高いのは私達だ。生物的に接近する人がいたら、その人への攻撃を優先してしまうだろうから私達が囮になって攻撃を引き付ける。


そして狙われる可能性が一番低いアイビー達が横を向いているドラゴンの目を撃ちぬく手筈になっている。


ドラゴンの向きから私達を狙っているのは分かるが突然向きを変える可能性もあるので、ドラゴンがブレスを撃つまで止まらないように言っておいた。


そうこうしている内にドラゴンの口の中の炎が大きくなっている。そろそろ撃ってくるか?


そう思った直後にドラゴンの周りに無数の火球が現れた。


「な!?離れるぞ、ユッカ!!」


「うっス!」


そう言って二方向に離れた直後に無数の火球がこちらに襲い掛かってきた。幸いに私達はすぐに離れたので直撃は免れたが、着弾した時に発生した爆風が襲い掛かり、体を持っていかれた。


「うお!?」


咄嗟に受け身を取ってダメージを軽減してすぐうつ伏せになって、後ろから来る爆風をやり過ごそうとする。


「・・・!!いや駄目だ!!」


ある考えが頭をよぎり、体を急いで起こして走り出す。


直後、私がいた場所に火球が降りかかってくる。


私達の周りには誰もいない、つまり同士討ちの心配が無くなり奴は無差別に攻撃することが可能になったということだ。


・・・いや、あいつは自分の味方のはずの騎士団にも攻撃していた。つまり、奴はもうあの王国の人間すらも味方として見ていないのでは?


依然として火球が収まる気配が見えない。こちらのことは土煙で見えないらしく適当に撃っているようだが、こちらは火球の光が見えるので十分に回避することができる。


がこのままでは、じり貧だ。


『隊長どうするっスか?』


インカムから爆発音に交じってユッカの声が聞こえる。


反対方向に走ったユッカにも火球は届いているようだ。魔力の量が異常だ、やはり転移者の体が素になっている事が原因だと思われる。


そう思っているとドラゴンが悲鳴のような咆哮をして火球が止んだ。


何が起きたのかと煙の間からドラゴンをよく見ると右目が閉じている。


『隊長今のうちに接近してください』


インカムからアイビーの声が聞こえる。


どうやらアイビーが狙撃して目に命中したようだ。


しかし目から血を流していない所を見ると潰れてなく、目に石が入ったぐらいの出来事なのだろう


『よくやったアイビー』


そう言った後にユッカに連絡をした。


『アイビーがチャンスを作った。今のうちに接近するぞ』

『了解っス』


私は接近しながらドラゴンを見た。突起が多く威圧的な印象を感じる。翼はあるが、使わないのか使えないのかは分からない。空を飛ばれて高高度にまで上昇されるとこちらの打つ手がなくなってしまい、ドラゴンからの攻撃を食らうだけになってしまうから、まずは翼を狙うべきだな。


『ナギ、ユッカ、私達は空に逃げられると厄介だから、あのドラゴンの翼を潰すぞ』


『『了解』』


『アイビーは、狙いを変えずに、引き続き狙撃を続行してくれ』


『了解です』


『バロックはアイビーの護衛だ。仲間がいる可能性も捨てきれない注意してくれ』


『了解しました』


一通りの指示を出し終えて、走る速度をあげる。


アイビーの狙撃でも嫌がらせは出来ても、翼が使えなくなるほどのダメージは無理だろう


それならばと狙撃の継続を判断した。


ふとドラゴンの方を見ると口がアイビー達の方を向いていた。


「・・・まずい」


なんとかしたいが私は遠距離武器をを持っていないのでどうすることもできない。


奴の放ったブレスはアイビー達の周囲に向かって放たれて、アイビー達の周りが炎で囲まれてしまった


「やめろ・・・」


走る速度をさらに上げて接近するが間に合わない


アイビーの狙撃が奴に当たっているが、奴の鱗に弾かれてしまう


逃げ場が無くなったアイビー達を確実に殺すかのように今までよりも巨大な火球を作り出した。


「やめろぉぉ!!」


私の叫びは空しく響き


奴の口から放たれた火球は無情にもアイビー達のいる所に命中した。


轟音を立てて炎が上がり、煙が天高く上っている。


「・・・・」


私は膝をつき拳を地面に叩きつけた。


「クソォ!!」


また守れなかった。


すまないアイビー、バロック・・・


『・・・隊長!!聞こえますか?隊長!!』


突然インカムからアイビーの声が聞こえた。


「アイビー!!無事なのか?!」


少し涙声になってしまい笑みがこぼれる。


『はい、バロックさんも無事です』


「そうか、本当によかった。しかしどうやって?」


言い方は悪いがアイビー達の装備ではあの大きさの火球を防ぐことはできない。


『それは・・・『俺が防ぎました』』


聞いたことのある声だな。この声は・・・


「私と戦った勇者か?」


『そうです。そしてお願いがあります』


私は深呼吸をして自分を落ち着かせた。


「聞こう」


チラリとドラゴンを見るが、ドラゴンは煙を見つめ悦に浸っているようでこちらに意識が向いていない


『俺を殺さないで奴を倒すまで協力してほしい』


「・・・ふむ、あいつはお前の仲間が化けた姿だぞ。それでも切れるのか?」


『ッ!!・・・だとしても、あのドラゴンは王都を脅かそうとしている。誰だろうと倒してみせる』


「そうか」


『俺は奴の能力をある程度知っている。あなた達だけでも俺だけでも、奴には勝てないだから!!』


「対価は?この状況でも無償で、という訳にはいかないからな」


勇者は少し考えた後にこう答えた。


『俺と一対一で戦うチャンスです。』


「・・・そこは嘘でも『俺の命だ』と言うところではないのか?」


『死ぬなと言われていますから。それにこういうことで、あまり嘘はつきたくないので』


「そうか・・・」


考え・・・るまでもないな。


「わかった協力しよう」


『ッ!!ありがとうございます』


「礼を言われることでもない。それにこの戦いが終われば私達は殺しあうのだからな」


『だとしても、です』


「そうか・・・他の皆聞いての通りだ。これから753部隊は勇者と共同戦線を張る。異論は?」


『ユッカ、ないっス正直キツイと思っていたので』


『ナギ、異論ありません』


『バロックとアイビー、異論はございません』


『よし、ではこれより勇者と共に駆除を開始する。全員生きて戻るぞ!!』


『『『『はい!!』』』』

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