全員が大団円とはいかない

「・・・・」


首と体を持ってきた風呂敷に包んで持ってナギ達の所へ歩き始める。


死体に慣れさせるのは、今回じゃなくてもいいだろう。


奴に照準を定め引き金を引き撃ち奴に当てた

それだけでも十分すぎるほどだ。


そのことに満足しつつ胸の痛みに顔をしかめる。


肋骨は少しヒビが入っているかもしれない

少し奴を侮っていたようだ

慢心しないように様々な所に協力をいつもしているのだが、それでも文章と実際の出来事では違いがあるな。


作戦通りに奴が極大魔法を撃ってくれてよかった。


あいつらは止めを刺すときに、よく派手さを求めるのかオーバーキル気味の大技を放つ傾向にあるから狙ってみたのだが、撃とうとしてくれて助かった。


今回の作戦はアイビーの準備時間を多めにとるために、向こうの装備を広範囲で一気に攻撃できる装備に変更しておいてよかった。


こちらに駆け寄ってくる人影を見つけながら

今回も一人の死者も出さずによかったと思い心の底からほっとした。





「隊長!!」


私達は見慣れない風呂敷包みを持った隊長に駆け寄りました。


「皆、ご苦労。対象は無事に駆除した。これより帰還する・・・ッ!」


そう言った直後に隊長が首を傾け、矢が隊長の顔があった所を通って行った。


「秋斗を返しなさい!!」


そう言ってきたのは勝気そうなショートカットの少女とその少女の後ろの弓をつがえた少女でした。


どちらも記憶にあります。


今回の対象のお嫁さんの内のふたりです。


「ナギ、転移課に帰還の準備完了次第すぐに転送するように連絡しなさい

ユッカはコレを持って後ろにいなさい

バロック達は周囲警戒」


隊長はそう早口で言ってユッカさんに風呂敷包みを投げ渡してから振り向きました。


「済まないがこちらも仕事だ

こちらに転移した者の殺害と死体の回収、それが私達の仕事だ

なので、そちらの要求には答えられない」


そう答えながら隊長はナギさんが影になるように立ち、ナギさんは通信用のインカムを取り出し転移課に連絡し始めました。


「ッ!!そんなのはそっちの事情でしょ、こっちには関係ないわ

秋斗はね、私達のお婿さんでオリュンポス帝国の皇帝でこれから幸せになっていくところだったのよ!!

それをあんた達は・・・」


女性は拳を握りしめ眼に涙を浮かべながら訴えました。


「私たちは周囲警戒です。彼女らの仲間が回り込んでいるかもしれませんから」


私の肩に手を置きバロックさんは小声でそう言って、セラさんと一緒に後ろを向いて周囲を警戒し始めました。


私も周囲警戒のため隊長の所から離れました。





全員が動き出したのを背中で感じながら私は目の前の少女を見る。


無理やり立っているような雰囲気がする。


きっと泣きたいのを必死でこらえてここまで来たのだろう。


「クーティ達は気絶していたから秋斗が死んだことを知らないわ。

けど目が覚めたら秋斗の死を嫌でも知ってしまう

彼女たちは自分を責めてしまう、心を病んでしまうかもしれない

全ては自分のせいだと言い死のうとするかもしれない

けど秋斗にお別れを言うことが出来れば少しは気持ちが晴れるかもしれない、ケジメを付けられるかもしれない

だから秋斗を返して」



彼女の訴えは最愛の人を取り戻したいというもの

そして彼に別れを告げ自分にケジメをつけようとしている。


そして自分よりも他人を思いやることができるその心


その願いはとても美しく、できるのならば叶えてあげたい


でも


「そんなのは、そちらの事情だ、こちらには何の関係もない」


そんな事を言う私に自分のことながら、なんと嫌な奴だろうと思う。


それでも私は彼女たちに言わなければならない。


私達は運ばなくてはいけない

元々あの体はこの世界の物ではない

さらに神の力がこびりついている

そんなものを置いて帰ることはできない。


しかしそれでは彼女たちは救われない。


今回もやらなくてはならないのかと思い、心の中で彼女たちに謝罪の言葉を言い続ける。


「そんなに訴えるなら取り返したらどうです?

先ほどまで私を大人数で囲って叩いていたのに、数が少し違うくらいで攻撃してこないのですか?」


私達の体は少し性能が上なだけであり、肉体だけで戦ったら負けてしまうだろう。


創造課や能力課などの皆の協力があってこそ、今回も仕事を無事に終わらせることができた。


だというのに、そのことを棚に上げ相手を仕事上に必要ないのに挑発している自分に、嫌悪感を感じながら続ける。


「それとも何だ?

お前は最愛の人を前にしながらも、行動ができないような臆病者なのか?

それなら貴女よりも、そちらの矢を放った方の方が、勇気がありとても素晴らしいと思うぞ」


彼女は悔しそうに歯を食いしばり顔を伏せて肩が震えてきていた。


「先ほども言ったが、これが私達の仕事だ

それなのに、こちらの事情を無視しそちらの事情だけを話し同情を誘おうとする。

そのような者に返せと言われて返すわけもないだろう

まぁそうしなかったからと言おうとと返すわけでもないのだがな」


足元が光り始めた。


転移課の準備が完了してきているようだ。


正直もうこれ以上言いたくない。


ここまで人を傷つけて何になるのだろうか

彼女の愛を否定し、想いを踏み潰している。


そんなことに何の意味があるのだろうか


それでも言わなくてはならない


このまま終わらせたら私はただ彼女たちを罵倒し心を折っただけになってしまう。


そんなことのために私はここまで言ったわけではない。


そう思いながら私は続きを話始める。

「悔しかったらもっと精進して私を殺してみることだな

まぁ貴様程度の力ではいくら経とうが私を殺すことは叶わないがな」


彼女が顔を上げ殺気の籠った瞳で私を見てきた。


そうだそれでいい、私を怨め


彼への愛情を私への怨みに変えて生きるんだ


彼女のこれからはきっと普通の人生ではないのだろう


他の人から見れば私は悪人になるだろう


だが心が折れたり壊れて、死んだりするよりかはよっぽど良い


私はそう思っている。


光が強くなり私達の姿が薄くなり始めた時


彼女は叫びながら突進し掴みかかろうとしたが手が触れる直前で準備が完了し私達は転移した。


私は自分の胸を強く掴み目を閉じ深く深呼吸をし、彼女への罪悪感と自分への嫌悪感を殺して

振り返りナギ達にねぎらいの言葉をかけた。

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