第79話 変装

魔都シュッツァガートがある【ダルツ国】向かう途中、俺たちは作戦会議をしていた。


「この先検問があるわけだが、そろそろ変装しないといけない。普通に捕まる」


「私は形態変化を使えばいけますからねー。楽なもんです」


 ふふんと鼻を鳴らしながらアスティはいった。


「試しにやってみてくれ。確認したい」


「いいですよー、はい!」


 無駄な掛け声と共にアスティの顔は全く別人に変わっていた。もはやアスティの面影もなく、ばれる心配はない。だが。


「なんで男なんだよ! 性別がおかしい! 胸がある男っておかしいだろ! おかまかお前は! あと誰なんだそいつ! 妙に強面すぎるわ!」


「ツッコミが長すぎる」


 僧侶が淡々といった。


「先代魔王ですよー。これでだめなら体ごと変形します?」


「先代魔王ならなおさら顔がバレてるだろ! むしろなぜそれでいいと思った!?」


「お父さんっ子だったので」


「お前の母親でいいじゃないか……」


「お母さん怖かったので……」


「そう言われても……いいからやってみてくれ」


「しょうがないですね、はい!」


 アスティの掛け声と共に顔が変化し、そこには美女の姿があった。麗しい、そして好みだ。だが。


「親と瓜二つだよ! 顔変わってねえ!!」


「魔族の血って無駄に濃いんですよね」


「ひどい言い草だな」


 そんなことを話してると僧侶が割って入ってきた。


「元部下で顔割れてない人にすればいいんじゃないですか?」


「確かにそうだな」


「確かにそうですね。父親に嫌われて牢獄に入れられていた人に変装しますね」


「顔はどうか知らんが、人物的にヤバそうだな」


「魔族にも複雑な人間関係があるんですね……」


 僧侶がしみじみといった。


「じゃあ変身しますよ。三度目の正直ですね」


 そう言うとアスティが骨格から変わっていた。どっからどう見ても男だ。元がアスティだなんてわかりはしないだろう。だが。


「亜人!! 人間じゃねえ!! このままいったら討伐されるわ!」


「文句ばかりですね!」


「その姿で言われると怖いんだが」


「じゃあどうすればいいんですか!」


 なぜかキレられていた。俺が悪いんだろうか?


「もう族長のフィルになれ。それなら問題ないし、思い出せるだろ」


「はーい」


 軽い返事と共にアスティの顔はフィルに変わった。耳が若干とんがっているが大丈夫だろう。


「で、問題はお前だ」


「お前とは失礼な。初対面ですよほぼ」


 僧侶は憤慨しながらいった。


「忘れてるかもしれないが、三年くらい一緒にいたから癖で」


「過去の私の扱い可愛そう」


「でもお前が料理当番だったとき、みんな喜んでたぞ。俺は特にひどかったからな。魔法使いはまあまあだったけど」


「確かに魔法使いさんは割と上手でしたね」


「ああ、俺の記憶だけ抜けてるのか……なんか悲しくなってきたな」


「そういえばなんで禁術使ったんですか? 聞いてなかったので」


「魔法使いを生き返らせるためだな」


「イケメンがすぎる……」


「正直成功したときは若干自分に酔ったからな。副作用のせいでどん底に落ちたけど」


「死んでないだけマシだと思いますが」


「まあなあ。で話戻すけどどうする? 君、化粧でなんとかなるもんなの?」


「無理じゃないですかね?」


「だよなあ」


 するとアスティが妙案を思いついたかのように声を上げた。


「顔を焼いてあとから治せばいいんじゃないですか?」


「悪魔か、お前は」


「新人への扱いがひどすぎますね」


「じゃあ他に何か案があるんですか!?」


「ないけど却下で」


「えー」


「えーじゃない」


 すると僧侶が何かを思いついたように口を開いた。


「アスティさんの形態変化って体から離れても持続します?」


「しますよー。優秀な術ですから!」


「ならアスティさんの体で薄い変装用の顔に貼るマスクみたいなものを作ってもらえばいいんじゃないですか? 切り離せばいいですし」


「確かにそうだな」


「ええ……私の人体に対する欠損の貞操が低すぎる」


「薄皮一枚剥がれるくらいだろ? いけるいける」


「いけない、いけない。私の肌がぼろぼろになる……」


「回復しますので大丈夫ですよ。これは妙案ですね」


「切り離すときちょっと痛いんですよ!?」


「人の顔を焼こうとしたやつが言うセリフとは思えんな」


「自業自得ですよね」


「それはそうですけど……ふたりとも目が怖いですよ?」


「やれ」


「やってください」


「うぅ……こんなパーティ入るんじゃなかった……」


 アスティは泣きながら腕を形態変化させ、薄い変装用のマスクを作った。そして切り離した瞬間、アスティは痛みでわめき出した。正直自業自得なので俺たち二人は淡々とそのマスクを受取り、僧侶にかぶせた。


「どうですか? ちゃんと変装できてます」


「前より美人になったな」


「は?」


「じょうだ……ぐわああああああああああ」


 体が焼けるように熱い。というより焼けてる。攻撃魔法も使えるんだなとふと思った。正直叫んで見たものの、焼かれなれてるので特に何も感じなかった。


「とりあえずアスティを回復してくれ、僧侶」


「え? 体燃えてますけど大丈夫ですか? どう見ても重症なんですが。自分で言うのもなんですが」


「慣れてるからな」


「普通に話してるのが怖すぎる。軽いホラーですよ」


 そういうと僧侶はアスティを回復したあと、俺の回復もしてくれた。


 そしてアスティがようやく口を開いた。


「この世の地獄を見たかと思いましたよ」


「薄皮一枚剥いだだけだけどな」


「傍から見たら勇者さんのほうが地獄でしたけどね」


「やったのお前だけどな」


「うっかりしてました」


 こうして変装を完了した俺たちは検問へと向かった。

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