第63話 変態

「アスティ殿は寝てるいるのかい?」


 俺が一人ちびちび酒を飲んでいると族長のフィルが酒を片手に話しかけてきた。


「酒を浴びるように飲んで昏睡中だな」


「そうか、そうか。気に入ってくれたようで何よりだ」


 確かにここの酒は普段飲んでる酒よりも格段にうまかった。


「この村では殆どが自給自足だ。極稀に人間とは取引するが、この国の人間は信用ならんからな。資源に乏しいこの村はグラン・クリスタルでライフラインを保っている。だがそれも一つになってしまったがな」


「グラン・クリスタルが一個で生活できるのか?」


「しばらくは大丈夫だろうが、次期に生活ができなくなるだろう。まあその時は私が自ら死んでグラン・クリスタルを作ればいいさ」


 深刻な話を軽い口調でフィルは話した。もう覚悟は決まっているのかもしれない。


「少しだけ気になったんだが、エルフってどうやって子供を作っているんだ? 村に男の姿はなかったが」


「クリスタルさ。クリスタルは生命の源なんだ。クリスタルを飲むことで子供を作れる。まあエルフと言ってもほとんど人間なんだ、男とでも子供は作れるがね。そしてたくさん子供を生んだ者はクリスタルの蓄積量も増えるためグラン・クリスタルになれるんだよ。まあ元々の保有量が多い者が稀に生まれるが、まあ今までの歴史の中では数えるほどしかいないな」


「なるほどなあ」


 エルフ族にとっては生活、子作り、肉体の補助とクリスタルはとても大事なものなのだろう。それを俺にくれたあの老婆は俺にこの村の未来を託してくれたのかもしれない。


「私も一つ気になったんだがアスティ殿は戦闘ができるのか? 先程の戦闘を見る限りあまり得意じゃないようだが」


「全盛期は俺の何倍も強いはずだけど……ただ装備が整ってないので、あのざまだが」


「なるほど、そういうわけか。アスティ殿は戦闘に連れていくのかい?」


「正直守りきれる自身はないなあ。せめて装備があればいいんだがなあ……」


「なるほど、装備か……この村には戦闘職がいないので、装備は確かにない。だがクリスタルを集めれば二人分は作れるだろう」


「それは確かに願ってもないことだが、クリスタルなしでは生活はできないだろう?」


「そうだ。だからプラハに勝ったら返しに来い。必ず生きて帰って来いよ」


「なるほどね、約束するよ」


 エルフ族全員が俺に賭けている。相手に勝つ勝算は低い。それでも希望に賭けたいのかもしれない。


「仮に装備を渡しても軍相手にはきついかもしれない。勝算はあるのか?」


「大丈夫だ。魔王を倒した勇者と、魔王がいるからな。負けるはずがねえ」


「矛盾してないか? アスティ殿に奴隷化の魔法でもかけたのか?」


「そこまで鬼畜じゃないな。まあ色々あってな」


「なるほどね、深くは追求しないよ。それで君たち二人では回復役がいなくないか?」


「あー、確かにそうだな。エルフ族の仲間が欲しいけど、命を危険に晒すのは嫌だな」


「案外君は優しいんだな。まあ手練を用意するよ。そうだな……フィニーを同行させよう。人間界での戦闘経験は豊富だし、それに元々死刑囚だしこちらに痛手はないからな」


「ええ……ここに来て優しかったあの族長が妙にドライすぎる……」


「はっはっは。まあ君のパーティだったフィーナもなぜか敵側にいるんだろう? 訳も知りたいだろうし、つもる話もあるだろう」


 まあ確かにフィルの言う通りだ。説得するとしても俺はもう僧侶の記憶からはなくなっているんだ、妹を連れて行ったほうが説得できるかもしれない。


 そんなことを考えているとフィルが「モルダー殿、ちょっと戦闘を見て見るといい。ちょうどフィニーが戦闘しているところだ」と広場をみていった。


 広場の中央を見ると、見た目は三十最ほどのエルフとフィニー(妹)の戦闘が始まったとこだった。


 俺は武器を使っていなかったが、ふたりとも杖を持っている。まあ杖がないと殆どの術が発動できないので当たり前なのだが。ただ回復しかできないし、戦闘といっても相手のクリスタルを奪うだけなのでいらないんじゃないかと俺は思う。


 その証拠に相手のエルフは自身に詠唱した後、杖で攻撃を仕掛けていった。おそらく防御の強化か持続回復のたぐいだろう。昔僧侶が使っていたし、使えてもおかしくはない。


 そしてフィニーは杖で殴られようとしているのに、詠唱を続けていた。敵のエルフが一瞬で詠唱を終わったところを見ると力量の差は歴然としている。少なくとも回復しか唱えれないエルフ族が詠唱できずに殴られればひとたまりもない。


 そして相手の杖が頭に振り落とされた。大きな衝撃音が村中に響き渡っている。戦闘に長けていないエルフでも杖で殴ればダメージを与えられる。そしてドタマに入ればダメージは深刻だろう。伝統の競技と言っていたが妙に血なまぐさいと思ったが口にはしなかった。


 フィニーを見ると攻撃を食らったはずだが何事もなかったように立っていた。そして攻撃した相手の杖が吹き飛んでいく。


 これは……前に僧侶が見せた防御魔法に酷似していた。周りの者は驚愕の声を上げている。であればこの術はエルフ族特有のものではなく、人間界で覚えたものなのか。


 そしてフィーナは腰を抜かした相手に対し詠唱を始めた。トンッと相手の頭に杖を軽く叩くと相手は泡を吹いて倒れた。そして相手の谷間に隠していたクリスタルをとって彼女は勝利した。


「胸に入れる必要あるのかこれ……」


「まあ服に入れるとすぐ奪われるからな。隠すなら二箇所しかない」


「二箇所? 一箇所は胸だろ? あとは……」


 嫌な予感がして俺が言わなくていいと言おうとしたらフィルは声高らかに宣言した。


「股間だな!! あれが一番奪いずらい」


「ええ……。エルフの倫理観がぶっ壊れすぎて怖い」


「まあ男もいないし、性欲の発散ができないからな! クリスタルは魔力を込めると振動するからちょどいいんだ」


 エルフ族は高貴で誇り高い生物だと思っていたがただの変態だったらしい。


「さらにいうと男がいないので性欲が発散できないのだ。だから女同士でやることも日常茶飯事だ」


 聞きたくなかった。だが若干興奮はする。


「ちょっと詳しく聞かせてくれ」


 強者には勝てる俺だが性欲には勝てなかった。


「そうか、君もエルフの文化に興味があるようだね、嬉しいよ」


 なぜか好意的に受け取られている。貞操感がおかしい。


「エルフ同士の行為にはな、男性器を模したものを使用する。樹脂でできた双方に男性器を模したものに薄くクリスタルをコーティングするんだ。するとクリスタルの効果でその道具が人肌くらいの温度になる。そして肉体活性により触れることで興奮状態になるんだよ。あれはハマるぞ、癖になる」


 聞きたくはなかったが、聞いてよかったような気がする。あの高貴で美しいエルフが淫乱になるとはもう興奮が抑えきれない。


「なあフィル、ワンチャン俺も混ざれない?」


「君は男だからなあ、子供ができる可能性があるからだめだ。フィルマ(母親)は確かに人間と子作りしたが、人間と子作りしたものは掟で死刑になるんだよ」


「まじかあ……」


 せっかくの童貞喪失チャンスも失われてしまったようだ。もはや絶望しかない。


 するとフィルが何かをひらめいたように口を開いた。


「いや、子供を作らなければいいんだ。できる方法はある」


「まじで! さすがフィル様! で、その方法とは?」


「君の肛門に道具を入れれば万事OKだ」


「万事OKじゃねえよ!! 肛門ガバガバになるわ! というよりそれが初体験は嫌すぎる。というか初体験かそれ?」


「はっはっは、面白いことをいうなあ」


 なぜかフィルが爆笑をしている。俺のほうがおかしいのか?


「意外とハマるぞ。三人でやるともう興奮して頭がおかしくなる」


 なんだこの村。新手の風俗か? やべえやつしかいねえんだけど。


「フィル様、何のお話をしていたんですか?」


 戦闘に勝利したフィニーが酒を片手にやってきた。


「エルフ族の伝統の話だ。代々伝わる高貴な行為をモルダー殿に教えていたところだ」


「さすがはフィル様です! エルフの伝統を重んじる姿はまさに族長そのものですね! 尊敬しちゃいます!」


 終始卑猥な話しかしてなかったぞ族長。誤解を解いてやりたいが、俺も変態だと思われそうなので黙っておくことにした。


「それでだ、フィニーにお願いがあるんだ」


「フィル様のご命令ならなんありと!」


「モルダー殿と一緒にプラハと戦ってほしい。大変危険な仕事だ、成功確率は0に近い。だがそれでもやらなければエルフは滅亡してしまう。頼まれてはくれないか?」


「姉のこともありますし、その任務受けさせてもらいます」


「そうか、そう言ってくれるか。一旦死刑にしてしまったのは悪かったな」


「いえいえ、村の危機と聞いて戻らずにはいられなかったですからね! 任せてください!」


 満面の笑みで答える僧侶妹。この先地獄が待っているのは黙っておこう。


「よし、これでモルダー殿、アスティ殿、フィニーの三人のパーティが組めたな。プラハ軍が攻めて来る前にクリスタルで装備は作っておくよ、安心してくれ」


「貴重なクリスタルじゃないんですか? それじゃ村が……」


「なあに、プラハに勝ってグラン・クリスタルを取り戻せばすべてがうまくいく。私は装備と回復アイテムしか作れない。どうかこの村を、エルフ族を救ってくれ」


 そういうとフィルは頭を下げ、地面に頭をつけた。


「任せておけ。僧侶もクリスタルもまとめて全部持ってきてやるよ。妹さんよ、よろしく頼む」


「はい、こちらこそよろしくおねがいします!」


 こうして旅のパーティはようやく三人まで増えた。

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