第51話 暴露話
「思い出した……シャルシャトム=フィーナだ……、完全に思い出した……。そう言えば名乗ってたわ……」
あの自己紹介以来、名前を口にすることはなかったから完全に忘れていた。魔法使いの時といい、職業で呼び合ってたから思い出すのも無理なのはしょうがない。正直アスティの正式な名前を今口に出せと言われたら、答えられる自信が全く無い。
そんなことを考えてると眼の前のフィニー(捕まってたエルフ)が驚いたように口を開いた。
「フィーナですか!? それ私の姉ですよ!」
「え? お前妹なの? 僧侶の? いやフィーナのか……まあ通りで顔が似てると思ったよ」
衝撃の事実な気はしないでもないが、正直顔が似てる辺りで予想は出来ていた。口にはしないが。
「そうなんですよ~。あ、なるほど……あなたがあのウバレインさんなんですね」
「そうだが……なんで知ってるんだ?」
名字まで名乗った記憶はないんだが……。
「姉からよく手紙が届いたので、それで知っていたんです。私もあなたとはお話したいと思っていたので、丁度いいですね」
「俺と? なぜ?」
「まあ手紙の内容しか知らないので多くは話せませんが、そうですね……まず初めから説明すると、姉があなたのパーティに入ったのはたまたまじゃないんですよ」
「そうなのか? ではなぜ?」
確かにあいつと初めて会ったときは意味深なことを言っていたな。なぜか自己紹介しただけで何かを納得して入ったし……。
「やっぱり知らないですよね。実はあなたの父親であるウバレイン=スティマングさんと私と姉の母親であるシャルシャトム=フィルマは昔、同じパーティだったんですよ」
「親父が……?」
あの糞親父のパーティだった? そんなバカな……。いや……なるほど……それで俺が名乗ったときに僧侶は納得したわけか……。親父は俺が普通に殺したわけだが、あのファッキンクズ野郎にもまともな時代があったってことなのか。
「なるほどねえ……納得はしたよ。それであいつは俺のパーティに入ったと」
「え? モルさんと僧侶さんって同じパーティだったんですか?」
ああ……そう言えばこいつ記憶を失ってたな……。
「まああれだよ、あいつらは色々あって俺を忘れてるんだが……まあそれは前話したし、そういうもんだと理解してくれ」
「なるほど……?」
納得したのかしてないのかアスティは小首を傾げている。まあ今さら説明しても信じてくれはしないだろう。なのでとりあえずこいつの疑問は無視しとく。
「で、妹。話を続けてくれ」
「あ、はい。姉の手紙では出会ったのはたまたまだと書いてましたね。それでちょくちょく旅の様子などを書いた手紙が送られてきていたんですが、まあ色々書いてありましたよ」
「例えば?」
「回復魔法があるのを良いことに勇者さんは前線で血にまみれるし、魔法使いさんは勇者さんもろとも敵を焼き払うし、いくら私が回復魔法があるからといって術をかけ続けるのが辛くないわけじゃない。後半は格闘家と呪術師も入ったせいで、魔法使いの炎魔法と呪術師の呪術を勇者と格闘家もろとも敵を殺すスタイルが本当にやめてほしい。怖すぎるし、魔力が持たない。持たないので薬をがぶ飲みしてるけど、全然追いつかない。ジャンキーで死ぬか魔力切れで死ぬか過労死で死ぬか。いずれ私は死ぬ。敵は討ってくれと毎回言ってましたね」
「ええ……完全に愚痴じゃないか……。そんなこと思ってたのかあいつ。どう見ても俺がおかしいやつじゃねえか」
「魔界でも噂になってましたよ。血も涙もない人間の屑の中の屑の人間どもがいると」
「まあ……言い訳するとあれが一番効率良かったからな……」
正直、格闘家を誘ってこの作戦を言った時のあいつのドン引きようは今でも思い出す。格闘家以外は全員納得してたからか、「そんな役割嫌だと言う俺がおかしいのか!? これが世界の常識なのか!?」と叫びまくってたな。まあ呪術で体をコントロールして無理やり囮にしたけど。
「あとはそうですね~」
楽しそうに話す僧侶妹を見て、嫌な予感しかしない。
「勇者さんが夜な夜な襲ってこようとしてる気がする。貞操が危ないとも書いてましたね」
「ええ……最低なクズ野郎じゃないですかもう……。確かに初対面で私に手を無理やり舐めさせましたし……。変態を通り越して犯罪者じゃないですか……」
後退りして俺から離れていく魔王。好感度もダッシュでどこかに消えていく。
「それで、姉の貞操は奪ったんですか?」
妹は妹でなんて爆弾放り込むんだお前は。もし俺が仮に貞操を奪っていたらどうするんだお前は。気まずいだろ、そんなこと言われても。頭おかしいのか。
「奪ってはないし、そんな目で見てないわ。誤解だ誤解」
「そうだったんですね~、姉は自意識過剰ですからね」
「納得してくれたなら助かるよ」
こいつが話が分かるやつでよかった。それに比べて、俺の遠くでゴミを見るような目で見てくるあのアホの子はもう何言ってもだめだ。ほっとこう。
「あとあれですね~これも姉の手紙に書いてあったんですけど」
「ちょっと待て。それ話しても良いやつか? よく考えてから発言してくれ」
「大丈夫ですよ、姉の冗談だと思うので」
「なら良かった。で、内容は?」
「魔法使いさんが気絶した時に、体を触っていたと書いてました」
「…………」
「…………」
「…………」
「え? まじなんですかモルさん……? え?」
「え? これも姉の冗談ですよね?」
「え? う、うん。冗談だよ?」
「モルさん、声上ずってません?」
「…………」
「…………」
「…………」
「妹さん、そう言う人のプライバシーに関わることを言うのはやめようぜ。良くない」
「で、触ったんですかモルさん」
「……まあ……うん……触ったな」
「なるほど……」
気まずい沈黙が三人を包む。なぜ俺はこんな暴露話をされなきゃいけないんだ。今更言われても若気の至りとしか言えないし、もう時効だろ。
「えっと……魔法使いさんが好きだったとかですか……?」
「いや……そうじゃなくて……そういう時期ってあるじゃん……? ねえ?」
アスティの方を向き目で助けを求めるが目をそらされた。
「あとはですね~、いつも最後はこう書いてましたね」
笑顔でそう言ってくる僧侶妹はもう悪魔にしか見えなかった。俺は恨まれているのか? 俺が何をしたっていうんだよ……!
「勇者さんは変態だし、魔法使いさんは若干頭おかしいですが、このパーティに入ってよかったと言ってました。人間も悪い人ばかりではないのかもしれないとも。まあ大体は愚痴でしたけどね。姉なりの照れ隠しなのかもしれません」
「え? そうなのか……まあそれなら良かったよ……誘ったかいがあった」
魔法使い以上に何考えてるかわからない奴ではあったが、そう言ってもらえてなんだが心が軽くなった気がした。
「で、地下の牢獄から出たのはいいんだが、これからどうする? とりあえずここから逃げるか」
辺りを見渡すとエルフ達が住んでいるであろう住居が遠くに見えた。さらに奥には一際大きい屋敷が見える。村長?でも住んでいるのかもしれない。村の中心には誰かは分からないがエルフの石像が三体立っており、緑のクリスタルのようなものをそれぞれの手に持っている。ほんのりの光っており、夕暮れ時の今でもその光は確認できた。
村自体は森で囲われており、前に立ち寄った僧侶の家と似ている。もしかしたらここを模して作られた家だったのかもしれない。実際にここに来るときにもわかったことだが、周囲には森しかなく、人里はなれた場所にこの村は作られている。何か理由があるのかもしれないが、中卒なので理由は検討もつかないのだが。
「そうですね、ここのいる理由もないですからね~、逃げますか」
「ちょっと待ってください! 私もついて行っていいですか? ここにいたら殺されるだけなので……」
そう言えば僧侶妹を忘れていた。僧侶をやっていたんだから回復魔法を使えるだろうし、今後戦力になるだろう。いても問題はないはずだ。
「いいぞ、じゃ一緒に逃げるか……じゃあとりあえずその辺のーーーー
大きな爆発音がして咄嗟に振り返ると、この場所とは真反対の村の入口付近で爆発による粉塵と煙が上がっていた。
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