第二章
第44話 旅の始まり
冷え切った石の床、鉄の壁。部屋の中は閑散としていて、ベットすらない八畳ほどの空間。トイレ付きの物件ではあるが、部屋の隅に穴が開いているだけであり、とても人が暮らしていけるとは思えない。また、隣の部屋とは鉄格子で仕切られているがお互い丸見えであり、プライバシーという点では配慮に欠けていると言える。蝋燭もなく、明かりと言えば窓から見える月明かりだけであった。
あまりいい物件とは言えないこの部屋だが、良い点もある。一つは家賃がかからないことだ。無料で住める物件と考えるとこの部屋の不便さにも納得がいく。また食事付きである点もプラスであると言える。臭い飯ではあるが日々の食事に困り盗みを働くよりは上等な生活だろう。総合的にはおすすめの物件と言える。
「うん。案外住み心地がいいだろうアスティ。二人で暮らすには少し狭いが、せっかくの新居だ。楽しく行こうぜ!」
隣でうつむくアスティに笑顔で話しかけたがこちらを睨んでくる。どうやら彼女はこの部屋を気に入っていないらしい。
「モルさん。殺しますよ? 誰のせいでこんなことになったと思ってるんですか!!」
そう叫ぶ元魔王の顔は完全に俺を敵としてみていた。あの一件依頼、俺のした行動はすべての人から忘れられている。アスティも例外ではなく、割りと命がけで上げた好感度も地に落ちている。
「気にするなよ、屋根もあれば飯も出る。いたせりつくせりじゃないいか。まあ、ひとつだけ文句があるとすれば死刑という名の強制退去があるくらいだな」
お互い手足を後ろに縛られているため、思いっきり顔面を蹴られた。
「うまいこと言ったつもりですか!? なんで私が死刑なんかにならないといけないのよ! これもすべてモルさんのせいですからね! こんなことなら着いてくるんじゃなかったああああああ」
外を見ると月が出ていた。今夜は満月のようだ。月明かりに照らされ仄かに光る空を見ながら俺は静かに言う。
「完全にデジャヴだこれ」
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