第25話 アスティに仲間はいない

「おせえ……」


 あれから数時間が立とうとしていた。だが待てど暮らせど一向に僧侶が出てくる気配がない。痺れを切らして僧侶が入った眼の前の店に入ってみたが別の店に行ったらしい、どこにも姿が見当たらない。


「遅いですねえ僧侶さん。いったい何をしてるんでしょう?」


「お待たせしました勇者さん。いやあ、いっぱいあって迷ってしまいましたよ」

 

 僧侶は満面の笑みで近づいてきた。


「おせえよ。というかその服……全く変わってないじゃねえか……」

 

街に着いた時と全く変わらない服装をしている僧侶がいた。気に入ってるのだろうかその格好が。


「オーダーメイドって時間かかるんですね、色々注文したらこんな時間になってしまいました」


「無駄なことを……その辺にあるものでいいじゃねえか別に……」


「女心が分かってないですね勇者さんは。モテませんよそんなんじゃ」


「そうですよ、女の子って言うのは服に気を使う生き物なんです。服は武器と同じくらい大事なんですよ! 戦闘服なんです」


 いやお前が着てる戦闘服、一瞬で決まったじゃねえか。男でももっと迷うぞ。


「まあとりあえず服は揃った。じゃそろそろ潜入するかあ……」


「ですね。で、どうやって入るかは決まってなかったですよね?」

 

そう言えばそうだったなあ。柵をぶち壊すわけにはいかなかったんだっけ……。


「んー……ちょうどここの路地裏に梯子があることだしこれで柵を飛び越えて入るのはどうだ? 音も立てないしバレることもないだろう多分」


「入る時は良いでしょうけど出る時はどうするんですか? まさかその梯子を抱えて過ごすわけにはいかないでしょう?」


「それもそうか……」


「持ち運びが楽な梯子があればいいんですけどね……」

 

 アスティ、そんな都合の良い物あるはず……うん、あったわ。あった。なぜ俺は気づかなかったんだろう、都合のいいものが目の前にあるじゃないか。


「よし、アスティ」


「え? なんでしょうかモルさん」


「梯子になれ。それを俺たちが登る。心配するな、登った所でお前を回収してお前も中に入れる。これならバレることもないだろう?」


 顔面に思いっきりグーが入った。何が気に入らないんだお前。


「絶対イヤです。ぜえええええっったい嫌です! 考えても見てくださいよ! 私の体を足蹴にして登るわけですよね? 私魔王ですよ! 魔王なんですけど!? モルさん最近私を便利な道具か何かと勘違いしてませんか!?」


 案の定激高するアスティ。こんなことが前に一度あった気がするが気のせいだろう。


「剣も梯子もそんな変わらねえだろ! それに安心しろアスティ、登る時は靴を脱いで登るから汚れはしない! 何も心配することはねえんだよ!」


「踏まれることに変わりはないじゃないですか! 自分の体で考えてみてくださいよ! もし私に踏まれたら嫌でしょう! やりたくないでしょう!?」


「アスティの足なら踏まれてもいい、いやむしろ踏まれたい! 足裏の感触を直に体で感じれるなんて幸福以外の何物でもないだろ!」


「くっ、変態に聞いた私が間違いでした……! そ、僧侶さんはどう思いますか!? 絶対嫌でしょう? やりたくないですよね!?」


「まあ私だったらそんな屈辱的なこと土下座されてもやらないですけど、大学に入るためにはそれしかないのでしょう? 私だったら絶対やらないですけど魔王さんがやらないと進まないので変身してください」


 身も蓋もない、少しの気遣いもない僧侶の返答。ドライというか冷徹、血が通っているのかお前は。


「な……僧侶さん冷たくないですか!? 私女の子なんですよ!? 女の子なら私の気持ちが分かるはずですよね!?」


 救いを求めて僧侶を見るアスティ。


「分かりますよ。分かりますけど正直私も散々恥をかいたので、魔王さんも少しくらい恥をかいてもいいかなと思います。さらに言うと不特定多数に痴態を見せるよりはましでしょう、さっさと梯子になってください」


「え……や、やだ! モルさん! 僧侶さんがいじめてきます!」


「よしアスティ服を脱げ。せっかく買ったんだ破れてしまっては元も子もないからな。そしてさっさと梯子に変形してくれ、こんなことしてたら日が明けてしまう」


「仲間がいない……! なんでこんなことに……」


「脱いでくださいよ魔王さん」


「はやく脱いでくれアスティ」


「うぅ……やりますよやればいいんでしょ……糞ヒューマン共が、こんなパーティ入るんじゃなかった……」

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