第23話 僧侶のパンツは白
「でかいというレベルを超えてるなこれは……国王の宮殿よりでかいんじゃねえのか?」
見上げる先には半円を描くように婉曲した建物 《聖セントリア大学》と、それをさらに囲う巨大な柵が見える。目の前には最近では珍しいバーレン式の彫刻が刻まれた巨大な門がそびえ立っていた。
「これと同じような門があと七個もあるそうですよ。魔法使いってこういう古臭いのを好みますよね、前時代的というか保守的というか」
「こんなのがあと七個も……お金がいっぱいあるんですね魔法使いさん達は……」
「まあ八つも通りがありますからね、これが一番効率的なんでしょう。不法侵入する私たちにとっては願ってもないことですけどね」
「それもそうだな……で、僧侶。中にはどうやって侵入するんだ? まさか門をぶち壊して入るとか言うんじゃないだろうな?」
「それじゃ仮装した意味がないじゃないですか、脳みそ足りてます? 正面からどうどうと入りますよ、少しは頭を使ってくださいよそれでも人間ですかあなたは」
さっきの件でいじりすぎたのか言葉がやたらトゲトゲしている。普段から散々罵られてるんだから少しくらいやり返したっていいだろ。こいつ生理なんじゃないのか? クソっ、言い返したい所だが口に出したら本当に殺されそうだ、思うだけにしておこう。
「すまん、僧侶の言うとおりだな。でも本当に大丈夫なのか? 僧侶はいいだろうが俺は魔法が使えないんだぞ? バレる可能性だってある」
「私の考えた作戦に何か文句でも? いざと慣れば低級魔法を使えばいいじゃないですか、ほんと勇者さんは馬鹿なんですね」
よし、ぶん殴ろう。こいつは思いっきりぶん殴る。
「おい、僧侶。お前ちょっと調子に――
「はい? 私が? 調子に? 何ですか? 最後まで言ってくださいよ」
よし、やめよう。目つきがもはや人間じゃない、殺される。確実に言ったら殺される。
「おし! 僧侶様の完璧な作戦があるんだ、絶対大丈夫だ安心しろアスティ!! 先を急ごう、こうしていたら日が暮れるぞ!」
「私は別に心配はしてないですが……」
「いいからいくぞ! ほら突っ立ってないで!」
「ちょっ、モルさん引っ張らないで! 手が取れちゃいますから引っ張らないでーー」
「はあ……調子がいいんだから……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おい待てそこの。お前男だろ? この学校に男なんて滅多にいないからな、全員顔は知っているんだが見たことない顔だな……本当にここの生徒なのか?」
何食わぬ顔で門を素通りしようとした結果、普通に守衛の奴に呼び止められる俺。おい、僧侶。お前が練った完璧な作戦は一瞬で崩壊したぞ、どうなってんだおい。
「あー……えーと……今度この学校に新しく入ることになったんですよ! だから知らなくて当然じゃないですか!」
「転入生か? この時期に転入生だなんて聞いたことないぞ。お前……嘘をついてるな?」
ついてるよ、ああすべて嘘っぱちだよ。どうすんだよこれ完璧にバレてるぞ。
「いや……どうも魔法の才能があるらしくて特例で入学を許可されたんですよ、ほら、魔法だってこの通り!」
これ見よがしに空に向かって低級魔法を放つ。頼む、こいつが馬鹿であってくれ……!
「おお……杖なしで瞬時にこの規模の魔法を撃つとは……疑って悪かったな、さあ通ってくれ」
「いえ、男の魔法使いって珍しいですからねしょうがないですよ。それじゃお仕事がんばってください」
うん、馬鹿だったな。いやむしろ低級魔法のおかげなのか今回は。ありがとう魔法使い、お前のお陰でお前を追い詰めるための証拠を探せるよ、ありがとうな!
「ん? おい待てそこの黒髪の女。お前だお前」
「え? なんですか……? 私魔法使いですよ……? 不法侵入しようなんて思ってないですよ?」
うん、その自らバレにいくスタイルは前衛的だが今はやめろ。わざとなのか? 自殺志願者か何かかお前は。
「不法侵入……怪しいな……それに黒髪の魔法使いなんて見たことないぞ。さてはお前……嘘をついてるな?」
一度この光景を見た気がするのは気のせいだろうか。完全にデジャヴだ。
「えーと……あれですよ! こう……魔力が強すぎて変異しちゃったんです! 闇系の魔法を使ってるとこうなるんですかね、不思議ですね!!」
「ううむ……そうなのか? 俺も詳しくは分からんがそうなのかもしれんな……でもさっきの発言は気になる、試しに得意の闇魔法とやらを撃ってみろ。それで判断できるはずだ」
「魔法ですか……ええと……こんな感じだったかな……えいっ!!」
空に向けて杖を振るアスティ。すると先端から黒い光が拡散して広がり爆発音と共に空に消えていった。一目見れば分かる、これは魔法じゃない。ただ魔力を空に向けて放っただけだ。魔力が強すぎて魔法のように見えるが玄人から見れば一目瞭然だぞ……。
「おお……黒色の光にこの衝撃波は……紛れもなく高度魔法の一種だな……疑って悪かった通ってくれ」
よしこいつを首にしろ。ただの無能だぞ! まあそのおかげで俺らは侵入できたんだがだめだろこれ……。
「モルさん! なんかてきとーにわーってしたらなんか出てなんとかなりましたよ! 案外いけますね!!」
「お前そんな感じで撃ってたのかあれ……あいつが馬鹿だったから通れただけで限りなくアウトに近かったぞ」
「いいじゃないですか通れたんですから! これであとは僧侶さんだけですね! 大丈夫ですかね僧侶さんは?」
「あー、まあ僧侶の術も一種の魔法だからなあ。普段使ってる術を使えば大丈夫じゃないか」
「それもそうですね! これで第一関門はクリアですね!」
「ああ、やっとここまで着たな。もう少しだ気を抜くなよアスティ」
「はいっ!」
僧侶を見ると得意の回復魔法と俺の攻撃を跳ね返した防御呪文を披露していた。さすがに本職だけあって俺らとは精度が違うな……。
「これで私が魔法使いだっていうのが分かりましたよね? それでは通らせていただきますね」
「おい、待てそこの女。誰が通っていいって言ったんだ? さすがに君を通すわけにはいかないな」
「はい? まだ魔法を見たいって言うんですか? もう十分見せたと思いますが……」
僧侶の魔法は完璧だった。誰が見ても魔法使いであると信じざるを得ないできだったはずだ。なぜだ? なぜ僧侶が疑われているんだ……。
「自分の格好をよーく見てみろ! なんだそのローブは、校則違反だ! 高度な魔法を使えるからと言ってそんな痴女みたいな奴を通らせるわけには行くか!」
なるほど、考えても見ればそのとおりだ。あんな変態な魔法使いなんてこの世にあいつくらいしか存在しないだろう。
「ち、違うんです! これは特別な事情があって許可されたもので……」
「何が違うんだ! そんなもの許可されるはずがないだろう! もしそうであれば許可証があるはずだ、それを見せろ!」
「え……? 許可証……? えーと……えーと……」
完全に目が泳いでいる、挙動不審にも程があるぞ僧侶。どんだけ打たれ弱いんだお前は、攻撃特化すぎるだろ、回復役だよなお前のポジション。
「嘘だったんだな! お前ら! こいつを連れて行け! 魔法使いを謳った賊だこいつは! 捕らえろ!」
やばい、どうする? ここで捕まったら俺たちの正体もバレちまう……どうすれば……考えろ、考えろ俺!
「違うんです! 病気なんです彼女は! だからしょうがないんです!!」
アスティ、病気ってなんだ!? 口からでまかせにも程があるぞ少しは考えさせろよ俺にも! クソっ!
「そうだ! そいつはその丈じゃないと魔法が撃てないんです! 人に見られて興奮することで魔力を上げることができる特殊なせいへ……才能を持ってるんです! だからそんな変態な格好をしてるんですよ!」
「そ、そうなのか? 本当なのか女」
「違います!! 私だって好きでこんな格好してるわけじゃありません! 馬鹿じゃないんですか!!」
「おい、違うって言ってるぞ! やっぱり賊なんじゃないのかこいつは!」
クソっ、こっちが助け舟を出してるってのにこの女は……。
「こいつは否定してますけど実際はただの変態です! 人に見られて興奮する屑ですよ!! でもそうしないと魔法が撃てないんです、信じてください!」
「そうですよその通りです! いつも彼女は『舐め回すように見てくるあの男どもの目線……たまらないわ……興奮して魔力が漏れちゃいそう……』って言ってるくらい変態なんです! 度し難い変態だとは私も思いますが信じてください!」
「なるほど……世の中は広いな、こんな魔法使いがいたなんて……私は勉強不足だな、信じるよ。疑ってすまなかった」
「信じないでくださいあの畜生共を! 私はそんなこと言ってません変態なんかじゃないです!! こんな恥ずかしい格好好きでやるはずないじゃないですか! 馬鹿なんですかあなた達は!」
ああもう! 埒が明かない、少しはこっちの立場を考えろよ!! こうなったらもう手段は選ばん!
「いい加減にしろ! いつもそうやって嫌がってる振りして結局は見せたいだけなんだろ! ほらっ、見せてみろよお前の力を!」
僧侶のローブを思いっきりめくり上げ周りに見せるつける。これで……信じてくれ!
「きゃあああああああああああああ」
「よし、これで魔力が高まったはずだ! 今ならあの魔法が使えるだろ、見せてやれよ!」
「見られて興奮してる今ならいけますよ! 見せてくださいあの魔法を!」
「さすが変態だな魔力が高まっているのがこの俺でも分かるぞ……さあ、見せてくれ! とっておきの魔法ってやらを!」
「うぅ……うっ……ぐすっ…………」
「おい普通に泣いてるぞ! やっぱり賊なんじゃないのかこいつは!」
「おい変態! いつまでそうやって芝居してるんだ! いいからはよ撃てや糞が!」
「いい加減にしてくださいよ! 頑張ってる私達のことも考えてくださいよ!! さっさと撃ってください怒りますよ!」
「うっ……うぅ……うぇーん…………もう……みんな……死んじゃえ……」
杖からでた無数の光、緑の斬撃が巨大な風の塊を形成していく。漏れ出した魔力が空気を切り裂き周囲の建物を切り刻み、削り取っていく。
「おい、これはやばいんじゃないのか? 大丈夫なのか? おい! 聞いてるのかそこの二人!」
これはやばい、逃げないと殺される。
「アスティ! 捕まれ! 逃げるぞここから!」
「はいっ! あっモルさんやばいです……攻撃がこっちに……」
「待て僧侶! ちょっと冷静になろう! な、僧侶!」
「……死んじゃえ……」
「ちょまっ……ぐああああああああああ」
「え、ちょっ……きゃああああああああああ」
「おい、女! もうい……ぐおおおおおおおおおおおお」
意識が切る前に見えた光景、走馬灯のようにスローモーションで再生される僧侶。風に煽られチラチラと見える僧侶の“下着”。それが俺が最後に見た光景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます