第37話 渇きの王 前編
水族館を奥に進んでいくと、俺たちは突如として現れた武装集団に襲われてしまった。
「ここを絶対に通すな! 『終焉者』と反逆市民たちだ!」
武装集団は練度の高さをうかがわせる動きと、優れた装備をしていた。
ガアドいわく、ウォルターの私兵部隊が駐屯していたらしい。
鯨を飼育するための超巨大水槽──水抜き完了──のなか、ウォルターの私兵部隊によって、銃弾があられのように放たれてくる。
俺とラナ、ガアドとファリアは物陰に身を潜めて少しでも撃鉄と破壊の音がやむタイミングを待っていた。
が、一向に炸裂音はやむ気配がない。
「エイト」
「なんだよ」
「投げ返されたら、その時は頼む」
「…は?」
ガアドは意味不明なことを言って、腰についたグレネードのピンを抜いた。
そして、4秒ほど待機。その後、渾身の「吹き飛べ!」のセリフと共に、ガアドはグレネードを水槽の奥の、敵陣地に投げ入れた。
俺は物陰の隙間から様子をうかがう。
グレネードは私兵部隊のもとへ景気良く飛んでいく。しかし、敵のもとへたどり着きほうなところで、空中で静止して、物凄い勢いでこちらへ飛んで、とんぼ返りしてきた。
投げ返されるって、そういうことかよ。
「やっぱり『サイコキネシス』か……エイト!」
「チッ、余計なことを!」
ガアドの叫びで、俺は投げ返されてきたグレネードを〔
「稲妻兵、放て!」
敵方から叫び声が聞こえた。
その瞬間、私兵部隊のひとりが、手から稲妻を発射してグレネードを撃ってきた。
たまらず、グレネードは破裂して、爆風とともに鉄の破片がまんべんなく飛び散る。
俺は〔
相手方からどよめく声が聞こえた。
と、同時に、相手の陣地に加速させてぶつける。
痛みに苦しむ声が聞こえてくる敵陣地。
追い討ちをかけるため、俺はガアドにグレネードをひとつ受け取り、ピンを抜いて、それを異次元のポケット入り口にそっと忍ばせた。
「このポケットの出口はどこに?」
ラナは耳を押さえながら聞いてくる。
グレネードを入れたポケットの入り口を閉じて、俺は薄く微笑んでかえす。その5秒後。相手の陣地が爆発を起こした。
超巨大水槽が揺れて、汚れた耐水ガラスが砕け散る。
あとに残るのは、戦いの後の静けさだけだ。
「全部、片付いたか」
「先を急ごう。もうウォルターの部屋は近い」
俺たちは超巨大水槽からでて、奥の部屋に続く廊下に入る。
「『終焉者』たちだ。ここで貼りつけにするぞ!」
「ん」
俺たちの後方から、追手がやってくる。
服装がさっき戦っていた兵士たちとわずかに違う。
もってる銃も違う。デカイ。
「パシフィック・ディザステンタの私兵部隊だ」
ガアドはそう言って、スモークグレネードを転がして、敵からこちらを視認できなくさせた。だが、敵はスモークなどお構いなしとばかりに、銃弾の雨で煙を貫通させまくってきた。乱暴な奴らだ。
「なんだかペースが早くないか? ウォルターの私兵ならまだしも、なんでディザステンタの私兵が俺たちを追ってこれるんだ?」
「エイト、お前はわかってないかもしれないが、アルカディアは文字通り″彼らの街″だ。この都市にいる人間は、すべて体内のナノマシンで管理されてる。性別、名前、年齢、誕生日、職業、持病、移動可能区画、もろもろな。このナノマシンの有無によって都市のあらゆる区画の出入りを制限してる。もちろん外からも、内からも」
「パパはナノマシンを誤魔化してるけど、この人数じゃどのみち誰かが追跡されちゃってるってことですよ!」
マシンガンを敵方にむかって乱射するファリアが捕捉してくれた。
「ぐぎぃ!」
「ありがとう、キングちゃん! そこ動かないで、今、リロードしますからね!」
物陰のない廊下の入り口で、キングの丈夫な甲羅が銃弾をふせぐ盾となっている。大活躍じゃないか、うちのキング。
にしても、やれやれ、どこまでも管理されているのだな、この世界は。
隣のラナは複雑そうな顔して、自分の手首の真新しい傷を見つめる。こっそり聞くと「ナノマシン、入れられたかも…」と不安そうな顔して言った。
その小さなつぶやきに答えるのはガアドだ。
「搭載済みだろう。貴重な奴隷であれば確実にな。だが、安心しろ、都市の外に出ればなんの意味もなくなる」
「チッ……なんでもかんでと監視、管理…これが海底人類の考えた理想郷なのかよ」
「異世界で長らく暮らした君たちには理解しにくいだろうな。だがな、混沌に飲まれた世界より、完璧に統率された社会のほうが、よほど人にとっては理想なんだ。その背景を、知らなければ共感はできん」
ガアドはそう言って、険しい顔をすると突如として指パッチンをした。
乾いた良い音が聞こえると、彼の手のなかに火炎の球が出現し、ガアドはそれをディザステンタの私兵部隊に向かって山なりに投げつけた。
大爆発が向こう側でおこる。
爆炎が晴れる。すると、緑色に光るエネルギーのシールドが見えた。どうやら、敵方の誰かが、爆炎から私兵部隊を守ったらしい。
「チッ、ひとりも死なないか。エイト! ここは私と娘で食い止める。さっさと、ウォルターを殺してこい」
ガアドは煙草を一本くわえると、ジッポライターで火をつけながら言った。
「エイト様、キングちゃん借りますね!」
「ぐぎぃ!」
ファリアとキングは歴戦の相棒のような顔つきで言ってくる。懐柔。
──バゴォ!
「ぐっ!」
「きゃあ!」
3人の声をかき消すように、私兵部隊から雷と火炎、氷結のエネルギーがキングに直撃して大爆発を起こした。
だが、我が相棒は特にリアクションすることなく無表情で耐え切る。素晴らしい。
しかして、それはキングだから出来ること。銃弾と超能力が支配する戦場に生身のラナをいつまでも置いておくのは賢明じゃない。
「すぐに戻る」
「少しだけ耐えてよね、お二人さん!」
俺とラナは2人と1匹を残して、そうそうにウォルターを倒すべく奥へと向かった。
──しばらく後
廃れて建てつけの悪くなった扉を蹴破り進むと一際豪華な装飾の部屋にでた。
「ウォルターの部屋か」
「みたいね。ウォルターはどこかな?」
見た感じウォルターの影はない。
奥で暖炉の火がパチパチ音を立てて、赤く重厚な絨毯が温かさに照らされている。
「っ、ここまで来たか!」
横の扉から4人ほど兵士が出てくる。
俺はラナを背後にかばった。
拳銃が抜かれ、乱発される。
俺はすべてを磁界の盾で塞ぎ切った。
「っ、その精度、パワー、『終焉者』は超能力者なのか……!?」
敵のひとりが、拳銃を捨てて、腰裏からリボルバー銃を取り出した。俺のコルトとそっくりだ。
構わず撃ってくるので、俺はその弾丸を手で掴み取った。
手のひらの中で、キュルキュルと弾丸は回転してやがて止まった。
「はぐぁ?!」
「ば、バカなッ! マナニウム変革質量弾だぞ……?! 掴めるわけないだろ!」
「悪魔だ、リーダー達が恐れていた『終焉者』は、やっぱりとんでもないバゲモノなん゛だぁ!?」
騒がしい敵方。
俺は手にとって弾丸を指で弾いて返す。
リボルバー銃をもっていた男は、はじき返した弾によって、手首を骨折したらしく、銃を取り落としてうめきはじめた。
敵方が絶望に顔を歪めるなか、俺は床に落ちたリボルバー銃をあやつり、縦横無尽に振り回して殴れる殴打武器として、4人の男たちを叩きのめして、数秒で気絶させた。
役目を終えた鈍器:リボルバーを手元に引き寄せて、ラナとおそろいで装備する。
俺とラナは思わぬところでペアルックになったことに目を合わせ、くすっと笑いあった。
「ラナ、弾は6発だ、あんまり無駄撃ちするなよ」
「わかってるって。エイトこそビビって撃ちまくらないでよね」
むむ、なかなか挑戦的だ。
ウォルターごときビビって無駄撃ちするなんて有り得ないだろうに。やれやれ。
「──おやおや、これはこれは。若い男女がデートついでに私を殺しに来たのかな?」
その声が聞こえた時。
俺とラナはすぐさま暖炉の前にたつ男へ銃を向けて、コルトの引き金を引いた。
──バンバンババンバンパパパンバン!
──カチっ…カチっ…
引き金をひくだけ、虚しい残弾ゼロの報告が、俺とラナ、両方のコルトから聞こえる。
「あの、ラナさん、撃ちすぎだって…」
「そっちも弾切れてるけど、エイト。どの口で言ってるわけ」
俺とラナは暖炉の前にたたずみ、両手の指の間に11発の弾丸をはさんで止めた老紳士を見やる。
老紳士は弾を床に捨てて、モノクルを直すと、呆れたように首をふった。
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