繋がる時、二人の正体

「それは……封印はされたんじゃなくて、しろがねとフィルミナは納得して……封印を受け入れたってこと?」

「せやな。そもそも、封印って言ってええのかってところからやな」



 やっぱりそこか。

 けど、何て言えばいいんだろう? 封印じゃなくて、時間まで犠牲にしたというか……何て言うか……



「……時間旅行……いや『時間献上』と言ったところかのう」

「ホンマ流石やで、フィー姐さん。その通りやで」

 フィルミナの補足にイザベラさんが肯定する。

 けどそうか、そうなら何となくわかるかもしれない。『献上』ということは、その言葉通り捧げたということ。



「つまり二人……しろがねとフィルミナは『約2000年の時間』と『大部分の力』を失った。それで魔王の『写し取る力』を無くす契約を一方的に結んだ?」

「いや、惜しいなぁ。そんなら、なんで魔王がここまで大人しくしとったのかが説明がつかんやろ」

 イザベラさんに言われて気が付く。


 そう言えば……いくら王が写し取る力をなくしたとはいえ、魔物が2000年も大人しくしていたのは何故だ?

 大人しくというか、本格的に動き出しているのが『今』ということが引っかかる。何なら、他の魔物は各自で動き続けていても不思議ではなかった。



 ……いや、違う。魔王は『写し取る力をなくした』だけで、『他の力』は失っていなかった。



 それならしろがねとフィルミナがいなくなった後に、軍勢を指揮して世界を制覇してもいい。

 事実過去に残っていた統治者は……不死者のエマって人と、契約魔術を使ったイザベラさんの二人。前者はすでに結構力を取られていた。イザベラさんも『過剰契約』で消耗したに違いない。

 いくら一番厄介な力を封じたとしても、全ての力を封じられた訳じゃない。ましてや、本人そのものが封じられた訳ではないのだ。


 どのようにでも、いかようにでも魔王は侵攻できたはずだ。



 もう一つ、何かが……!



「……『副作用』!」



 自分の言葉にイザベラさんがパチリ、とウィンクを一つして「正解やで」と返してくれた。2000年間の眠り、さらに目覚めてからもその身を苛む『副作用』。

 おぞましく恐ろしい、その『副作用』が一方的な『過剰契約』の内に含まれているなら……


「解かれた後も思うように力が出せず、一部の記憶障害も起こる『副作用』……それで魔王シャイターンに2000年間の呪縛を課したんや」

「『呪縛』? それはどんな……」

「簡単や。二人が目覚めるまで、世界の一部には立ち入れんってもんや」

 成程、それなら侵攻が進まない……もとい、これまで自分たちのところに兆候がなかったのも納得できる。




「そいでそれが解かれる時は、しろがねとフィー姐さんが目覚めた時や。その合図は……『血の落日』。あの真っ赤な夕焼けやな」

 繋がる、全てが。




「……2000年前、魔獣王改め魔王シャイターンが世界制覇に乗り出す。それを迎え撃つは龍、不死者、鬼、人間たち。そしてそれを統べる『統治者』であった」

「せや。しかし魔王の『写し取る力』のせいで単純にぶつかっても無駄死にや」


「けど『契約魔術』……中でも一方が超過した対価で結ぶ『過剰契約』で、魔王の『写し取る力』はフィーちゃんと龍帝の『2000年間』で失くしたっすね」

「そうや。二人の『統治者』……二人がそれを捧げんかったら、消せなかった強力な力やね」


「さらに、フィルミナと龍帝にその……『副作用』を課す。それで、魔王が一部地域に踏み入れない『呪縛』を施した?」

「2000年間。それだけの時間を稼ぐためには……仕方なかったんや」


「だけどその『呪縛』も、ついに解かれた。それによって……魔王シャイターンは、この世界を制覇するために再び動き出した」

 こくり、とイザベラさんが頷き——「そんで今日に至るっちゅーわけやな」と過去への氷解を終えた。






「……いや、まだであろう?」

 終わらない、フィルミナによってまだ過去と今へ繋ぐ話は終わらせない。それはもちろん、俺も同じであった。

 疑問は残っている。


「儂が問うのは三つ。一つ目は『残されたそれぞれの種族はどうしたのか?』じゃな」

 そうだ。種族を統べる『統治者』がいなくなった後、残された者はどうしたのか?


「二つ目は『不死の統治者、依希・回夜はどうなったか?』ということじゃ」


「そして最後……お主は、どうやってこの時代に来たのじゃ?」



 フィルミナからの問いかけに対し、イザベラさんが一息ついて額を押さえた。


「……一つ目と、二つ目はほぼ同じ答えやな」

 彼女が額を押さえたまま、沈痛な面持ちでこちらを見てくる。たしかにどうやっても、明るい方向にはいかないだろう。

 事実、今の世に鬼なんて種族は聞いたことがない。




「残されたそれぞれの種族は、依希の大姉御の指揮の下で……魔物どもの防波堤になったんや。魔王はこれなくても、他の魔物はそうじゃあらへんからなぁ」

「そして——依希殿と鬼の一族は、逝ってしまったのじゃな」



 既に手の加えようもない過去。

 それを聞いて戸惑うことも嘆くこともなく、残酷な事実を自ら補足したフィルミナ。イザベラさんも、頷いて返すことしかできなかった。




「三つめは……そっちの二人のことも一緒に説明しよか」

 イザベラさんが沈黙を破りつつ、それぞれレベッカとジャンナへと視線を送った。そして、ずっと口を閉ざし続けていたアランさんを見据えた。


「全部、話すけどええな?」

「……ああ、頼む。俺からは『契約』で話せねえからな。全部、話してやってくれ」


 アランさんからの同意を得て、

「レベッカ、ジャンナ。あんたらはウチの子供であるけどな、ただの人間やない」

 話す。

 アランさんに拾われて、若干18歳で一角の冒険者として活躍し、何故か大森林を一切迷うことなく進んだ彼女らのことを。




「あんたらは……ウチを元に生まれた『ホムンクルス』や」

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