問いかけとその真意
スジャク公こと、フェオン・シンノウ・スジャク様と話し始めてどれだけ経ったか……恐らく、30分に満たないくらいだろう。
しかしその30分未満の時間に比べ、会話の濃度は非常に濃かった。
こちら——王国の状況や動き、今回の遠征を政治的に考えた場合の可否。さらにはここまでの公国の状況をどう見るか等……正直、専門書を片手にレポートにして提出したいくらいの物ばかりだ。
それに淀みなく答えていくのはエイドさん。素直に尊敬する。
いや、頭の回転も速いし教養も高いのは今日までで知っていたはずだが……そんな自分の予想を遥かに超えている。
今回の遠征の総隊長を任せられるわけだ。
それにフィルミナも負けてはいない。
ここまでの戦術や野営の説明、また言葉遊びのような問いかけを即座に看破していく。時折スジャク公が混ぜてくる、引っ掛けのような問答をすぐに指摘……こちらも法や約定に明るくなければ出来ないだろう。
……いつの間にそんな知識まで身につけたんだ。もうその辺の神殿守よりよほど博識だろう。
この二人——凄すぎる。
さて、そんな頭脳派の二人が大活躍している中……自分はひたすらに礼の姿勢を取っていた。
いや、それしか出来ないって。
自分が考え始めたり、聞いたことをまとめようとしているうちに、エイドさんとフィルミナが答えちゃうんだもん。
アランさんも同様で、自分と同じ姿勢を取ったまま固まっている。
……これ、本当に俺とアランさんはいるだけで終わりそうだな。
少々情けないと思わないでもないが、無理に自分が何かする必要がない。出しゃばっても足を引っ張るだけだろう。
そもそも非常事態の戦力として、または『英霊教団』の知識が必要となれば……
「……ふむ、そちらの若人。そなたは王国の出か?」
「あっ……は、はい!」
油断してた!
まさか自分を指定してくるとは……だが、なんてことはない。こう見えても神殿守の中では優秀な方だった。
ここからの巻き返し程度、昼下がりのティータイムと変わらない。
「では『英霊教団』のことにも精通しているか?」
「はい。王国で育ったものとして、恥ずかしくない程度には覚えがあります」
加えて、あのテオドール先生と暮らしていたのだ。こうした不意打ちの指名や問い掛けなんて、慣れたものだ。
「ふむ。では……」
そして始まる『英霊教団』についての問答。
恐らく、自分が詰まったらエイドさんが即座に助け舟を出してくれるだろう。けど、彼にそんな負担をかけてられない。
ただでさえ多くの責任や重圧を背負っているのだ。自分の分の負担くらいは失くしてみせる。
何より——かつて神官を目指した気持ちと努力に嘘はない。
説法や教義の勉強は今も生きている。
「ふうむ……なるほど」
質問攻めは終わり、かな?
スジャク公こと、フェオン様から投げかけられる問いが途切れた。
おおよそ十問か、それに届かないくらいか。『英霊教団』に関することの質疑応答を繰り返したが……何の問題もないはず。
神殿守として真面目に、怠けずに『英霊教団』のことを学んでいれば答えられるものだった。自分としては、冷静にすれば苦も無く返せる程度の問いかけだ。
けど……これが何になるのかがわからない。
「最後に……そなた、冒険者か?」
「はっ。おっしゃる通りでございます」
スジャク公が差したのはアランさんだ。指名されたアランさんも応える。
「恐れながら、自分は腕っぷしだけが取り柄の冒険者です。先の三名のような……学を持ち合わせておりません」
これまでのやり取りのせいか、アランさんが先手を打ってそう言った。
「良い、そちらの方はもう疑っておらん。それより……そなた、公国で朕に会ったことはないか?」
何を疑っていたかも気になるが、スジャク公とアランさんが会ったことがある? どういうことだ?
「いいえ、自分はそんな立場の者ではありません。他人の空似かと」
「……そなた、名は何と申す?」
「……『アラン・ウォルシュ』と申します」
簡単な、やり取り。
だがそれを聞いてスジャク公は顎に手を当て、一息つく。
さて、どうなるか?
「スジャク公、我々は……」
「皆まで言うな。盟友たちよ、試すような真似をしたことを詫びよう」
玉座から、スジャク公が——軽く頭を下げた。
王族、ではないにしても首都を……引いては国の一角を担う人間が。
「ここまでの確認は必要だったのだ。何せ、それのせいで朕の都は多くの被害を被ったのだ」
確認? 被害? それは……
「心中お察しします……こちらでも確認できております。植物型の魔物の種子、ですね?」
ああ、ドリュアデスの種子……たしかに、アランさんとデビーさん二人と親しい人……ブレンダさんでも擬態しきった。
ある程度なら、その擬態の元になった人の情報を受け継いで化けられるのだろう。
「そう、植物人間による擬態。それで朕の軍と首都が受けた被害はどれだけ後悔してもたりないほどよ」
「しかし、その擬態も完璧ではない。その者本人の細かい情報や、深い理知的な情報はやすやすと再現できぬことが分かっている」
「……故に、貴殿らに問いかけて試すようなことをせざるを得なかった」
そうか、スジャク公はこちらを試していたんだ。
ドリュアデスの種子なら擬態しようと限界があるのだろう。だからそれを見極めるための問答を行ったのだ。
スジャク公は『教養と知識』で、ドリュアデスの種子を見破ろうとしたのだ。
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