ちょっとアウトローな女子会へ
※番外編『時には男子会を』の続きです。
先に『時には男子会を』を読了してから、読むことをお勧めいたします。
セスとアラン殿が二人で飲みに行ったが……セスは平気かのう? 何やら、アラン殿から不穏なものを感じたが……まあ、セスならば平気であろう。
それよりも今はこちらじゃな。
「のう、『女子会』とはどんなことをするのじゃ?」
連れ立って歩くレベッカとジャンナに尋ねるしかない。かつて儂が生きていた時代は無論、目覚めて過ごした二カ月間でも聞いたことがないのじゃ。アモルで読み漁った新聞に、そのような文言があった気もするが……詳しい記述はなかった。
知らぬは罪ではない、知ろうとしないことが罪じゃ。
「難しいことはありません。ただ、女の子同士で集まっておしゃべりするだけです」
短く整えた赤の髪を軽く揺らし、レベッカが問いに答える。
「……ふーむ」
「お茶会って言った方がわかりやすいっすかね? お茶しながら普段言えない……フィーちゃんなら、セスっちへの愚痴とかっすかね?」
ジャンナが、「いや、まあ、そんなのがあればっすけど!」と付け加える。レベッカの鋭い視線が刺さっとるのう……
しかし、セスへの愚痴とは……まあ、完璧な者など存在せん。控えている小言程度ならあると言えばあるのじゃ。
そうなるとレベッカとジャンナは……
「二人はアラン殿への愚痴、ということになるのかのう?」
儂の言葉に、レベッカとジャンナが顔を見合わせ——軽く笑った。
「ええ、師匠への愚痴もあります。それよりなにより……」
「『女の子だけ』ってとこが重要っすね。男の人の前で話しにくいこととか、あとは『普段言えない』って部分っすよ」
成程のう。
つまりは……女性だけで腹を割って話す、ということか。
「……そんな話がなかったら、ただ甘いものを食べるだけになります」
む! それは良い!
「ケーキとかクッキーとかシュークリームとかアップルパイとか……ひたすらスイーツでお茶するだけでもオッケーっすね」
「むぅ……密会に甘いものオンリー、魅力的じゃな」
取り分け好きなのは林檎を使った菓子じゃが、甘い物は単純に好きじゃ。それに香り豊かな御茶の組み合わせ……胸が踊るのう!
「そうっすよね、そうっすよね! さあ、いざ女子会っすよ!」
「うむ! まずは甘味を揃えるとしようかのう!」
顔を寄せあったジャンナ、眼鏡の奥にある明灰色の瞳が煌いておる。恐らく、いや、確実に儂の瞳も同じ輝きに染まっておるじゃろう。
「……けど、今回は難しいかもしれませんね」
そう呟くのは、レベッカじゃった。
物憂げに染められた容貌、夕闇にさらされてもなお主張する赤毛……む? 夕闇?
「な、なんでっすか?」
「今から行っても、ほとんどの店は閉まっていますよ?」
「あっ」
成程のう。
確かに儂らは五人で簡単な仕事と共同の鍛錬を終えたところ……既に日は黄昏となっておる。大抵の甘味処は閉まるところであろう。
そして、開いている店もほとんどの商品は掃けておる……
「「「……」」」
沈黙、儂を含め三人が言葉を失ってしまう。
「……あ、ああ! その、あたしが作った燻製ならあるっすよ!」
「ちなみに何の燻製ですか?」
「えーと……チーズとか、卵とか、ベーコンとか、ささみっすね」
「「「……」」」
再び沈黙。
確かに、甘味の代わりに燻製の落差は辛いものがあるのじゃ。しかし……
「ふむ、儂も燻製は好きじゃぞ。ワインによく合うからのう」
素直な、本心じゃ。
人が育んだ文化、その一つである料理は素晴らしい。何時ぞや荒野でセスには聞かせた気もするが……この二人には伝えてなかったのう。
「おお! そうっすよ……ね……ん? ワイン?」
「フィルミナ、あなたはどう見ても未成年じゃ……」
レベッカとジャンナが当然の反応を見せる。しかしこれは狙い通りじゃ。これで摘まむものの落差からは焦点がズレた。
あとは、儂次第じゃな。
「……『人』であればそうじゃのう」
儂の一言に二人が『あっ』という表情に変わる。
「儂も自分の容姿は自覚しておる。万が一見つかれば、セスの評判もどうなるかということもじゃ」
「故に、セスと出会ってから飲酒は控えておった。しかし今日は他の者の目を気にすることはない『女子会』……事情を知る者同士、秘密を共有せぬか?」
軽く片目を瞑り、レベッカとジャンナに同意を求めておく。
さらにダメ押し、「セスも理解はしてくれるであろうが、良い顔はせんじゃろ。そんな中で飲む酒はイマイチじゃからな」と。
レベッカとジャンナ、二人の表情が見る見る間に違反を犯す背徳感を楽しむような笑みに染まってゆく。
「いいですね。ちょっとアウトローな『女子会』になりそうです」
「おお……早くも女子同士の秘密が! こりゃたまんないっすね!」
お互いの顔を見合わせて笑みを深くした後、誰ともなく酒屋への道を歩む。
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