第五章

過去の一幕——とある冒険者と赤子——

 なんで、こんなところに?

 そう思いつつ、ふらふらと『それ』に近寄っていく。


 俺が近寄ろうとも、何の反応もない。いや、当然っちゃ当然……なのか?

 目の前に現れた、そいつらと関わった経験がほとんどない俺にはわからねえ。



 大樹の根元にいた……安らかに眠っていた、それ——赤ん坊——を覗き込む。



 ……静かだ。

 普通、赤ん坊ってのはもっと泣くもんじゃねぇのか?

 空腹の時やトイレの時とか、寂しいとかで、泣いて知らせるもんだろう。こんな、森の奥深くで……平気、なわけねぇだろ?


 疑問が次々と浮かんでくるが、目は赤ん坊から離せない。

 生まれたばかりか? 白い清潔な布にしっかりとくるまれ、安らかに寝息を立てている。



 ……捨て子?

 いや、馬鹿か俺は。誰がこんな大森林の奥深くに、わざわざ我が子を捨てに来るってんだ。



 時間を、忘れていた。

 涙も鼻水も流して逃げてたってのに、大樹の根元にいた赤ん坊……それに目を奪われていた。




『おお、見えるんか?』




 響いた声、耳にではなく脳に届く感じがした。

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