第60話 君と話のネタ

「次、瀧山亮介さんどうぞ」俺の名前が呼ばれた。


「はい」座っていたパイプ椅子から立ち上がり審査員達の前まで進む。あっという間に特撮番組『覆面ドライバー』のオーディションの日がやってきたのであった。気軽な気持ちで行って来いと小野寺社長には言われたが、他に参加しているタレント達の神妙な顔にこちらまで顔が強張ってくる。よく見れば見たことがあるような顔もあった。皆、こに役を勝ち取る為に必死なのであろう。俺のような冷やかし半分の奴がこの場所に居ていいのかと正直後ろめたい気持ちになった。


「あっ、君が小野寺さんの所の・・・・・・・」中央に座る中年の男性がポツリと小さな声でつぶやいた。


「えっ!?」俺はその男性が発した声がよく聞こえなくて聞き返した。


「いや、いいんだ・・・・・・・、君の名前は・・・・・・瀧山君だったね」なにか、履歴書にようなものをパラパラと眺めながら俺の名前を確認する。


「はい、瀧山亮介といいます」丁寧に頭を下げて自己紹介をした。


「君のスタントが素晴らしいと聞いているが、格闘技の経験もあるのかね?」いつの間にか俺はスタントマンが本業であるような扱いに合っている。俺は普通の大学生なんですけど・・・・・・・。


「ええ、少し前まで空手をやっていました」実は俺は小学生から大学受験を始める頃まで家の近くの空手道場へ通っていた。そこそこ本気でy取り組んでいて所属していた流派では優勝したこともある。ちなみに弐段で黒帯を一応頂戴している。


「そうか・・・・・・、良かったらなにか空手の型を一つやってみてくれないか?」中央の男性が俺に空手の型をやるように即してきた。


「それでは・・・・・・」俺は深呼吸をしてから両足を揃えて腕を十字に切った。「バッサイ大!」俺の所属する流派の肩を表演する。しかし、空手を辞めてからすでに一年以上の月日が経過している。練習をろくにしていない者の空手の型など正直言うと見れたものではないであろう。「たあ!!」気合を込めてから型を終了する。


「ありがとう、最後にこのセリフを読んでもらえるかな」台本を差し出して一行のセリフをボールペンで指示さししめした。


「はい・・・・・・」俺は言われるがままにそのセリフを一行読んだ。


「はい、どうも・・・・・・、結果は改めて連絡します・・・・・・・、次の方!」


「ありがとうございました」俺はお辞儀をしてから部屋を後にした。俺に後から入った男性がモデルのようにカッコいい男性であった。とてもこのオーディションに参加している他の男性達に勝てる気が全くしなかった。まあ、元々素人がそんなに簡単に受かるものではないであろう。緊張が解けて体が軽くなったような気がした。


 俺は話のネタが一つ出来た位にこの時は思っていた。


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