第49話 君とSNS

「大丈夫ですか?」美桜が心配そうに聞いてくる。どうやら俺がスタントの仕事をする事を知らなかったようだ。少しだけ焦げた俺の髪の毛を見て驚いていた。「社長!ひどいですよ!私の亮介さんにスタントマンの仕事だなんて!」どうやら彼女は俺の事をペットかなにかと勘違いでもしているようである。


「ちょっと聞き捨てられない言葉だね。私の亮介さん?それならこれからは私も、私の亮介って呼ぶことにするか」言いながら小野寺社長は俺の首にヘッドロックでもかけるように腕を回した。大きな胸が顔に当たりかが強張ってしまう。


「美桜ちゃん。俺の事なら大丈夫だよ!心配してくれてありがとな」小野寺社長のヘッドロックを外してから俺は親指を立てて合図をした。


「でも・・・・・・」


「そんなに、彼の事が心配ならMIONが歌を歌ってくれれば一発で解決するのにな」小野寺社長は腕を組みソファーの背もたれに体重を預けた。


「そ、それは・・・・・・」美桜の顔が曇る。どうしたんだ、彼女が歌を歌えない理由がなにかあるのだろうか。学業に専念する為とは聞いていたが、考えれば大学の授業をうまく調整すれば、彼女ほどの売れっ子歌手なら十分に活躍することは可能であろう。


「あっ!」突然、小野寺社長が声を上げる。何やらテレビの画面に魅入っているようである。


「こ、これは・・・・・・・!?」画面には見覚えのあるピンク色のバイク。いや、ハーレーダビッドソン。軽快な音楽とそのバイクを操る黒いライダースーツを着た男。フルフェイスのヘルメットをゆっくりと持ち上げると栗色の長い髪を棚引かせた姿。男だと思い込んでいたそれは女だった!そう昌子、篠原昌子であった。彼女は胸のファスナーをゆっくりと下すとピンクのビキニに覆われた二つの美しいふくらみが姿を現す。そして顔のアップ、彼女は清涼飲料水を飲むと商品名のコール。


「お前は峰不二子か!」俺は以前も同じ突込みをしたことを思い出していた。


「このCM、凄い好評なのよ!急にアッチコッチからオファーが来てさぁ」小野寺社長が頭の後ろで腕組をしながら美桜の顔を覗き込む。


「じゃあ、私が歌わなくても昌子さんと桃子ちゃんで大丈夫じゃないですか」美桜はそう言い残すとソファーから立ち上がり階段を昇って行った。


「美桜ちゃん・・・・・・」俺は彼女を目で追いかけた。


「あああ、逆効果だったか・・・・・・」小野寺社長がゴロリとソファーに寝転んだ。その時一瞬ピンクのショーツが見えたような気がした、あくまで気がしただけだが。


「どうして、美桜ちゃんが歌を歌えなくなったのは、なにか理由があるんですか?」美桜の不自然な雰囲気になにかがあるような気がした。


「実は、彼女の事をSNSで悪く書く連中がいてね。彼女の歌を聴くと頭が悪くなるとか、根も葉も無い噂を流布されたんだが、発信した連中がね・・・・・、どうも仲良くしていたタレント仲間だったようなんだ。それで彼女は人間不信になって街をふらついていた時に、交通事故に巻き込まれかけたんだ。・・・・・・そして君に出会った」


「あ、あの時の事ですか・・・・・・」美桜と初めて会った時の事を思い出していた。


「彼女は突然、芸能界を引退したいと言い出したんだ。そして大学に行きたいとね。まあ、元々彼女が勉強ができる法であったから受験はそんなに苦ではなかったようだ」それは羨ましい。俺はこの大学に入る溜めに滅茶苦茶勉強したのに・・・・・・。「私も少しすれば、彼女も芸能界に戻りたくなって、歌を歌ってくれると思っていたのだが・・・・・・、どうやら根は深いようだ」小野寺社長は腕を目の上に被せると深いため息をついた。


「そんな事があったんですか・・・・・・」俺は全く知らなかった。彼女と大学で再開してから彼女がいつも笑顔で接してくれていた。そんな悩みを抱えていたなんて想像もつかなかった。「一体どうすれば・・・・・・・」俺は彼女が歌をもう一度歌えるようにするにはどうしたらいいのかと思案した。


「それが解れば苦労はしないよ・・・・・・」彼女はもう一度ため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る