第35話 君と金ちゃん

 夕食の後、くつろいでいると母さんから電話がかかってくる。


「亮ちゃん、元気~」母さんはすこぶる元気そうであった。


「ああ、なんとかやってるよ」この生活も慣れはじめてきている自分がいる。


「亮ちゃん、金ちゃんって覚えている?」唐突にその名前を言われたが一瞬解らなかった。


「あ、ああ、幼なじみの……、子供の頃よく遊んだな……」たしか、俺が小学校の中学年だったと思う。一つ二つ下にそんな名前の男の子がいたように記憶している。


「こっちに引っ越して来たら偶然会っちゃってさ。で、意気投合してよくよく話を聞いたらそっちに一月ひとつきほど滞在の予定があるっていうから、それならお金が勿体無いからうちの家を使ったらってはなしになったのよ」いやー、本当に母さんは誰とでもすぐに意気投合するんだな。俺もその社交性が欲しかったわ。


「金ちゃんも、亮ちゃんにすごく会いたいっていってたよ。多分、明日位に挨拶に行くと思うから仲良くしてあげてね」ってまた勝手に決めて、俺は男仲間が増えて嬉しいけど、普通の男子ならこの女だらけの水泳大会みたいな環境に驚くぞ。


「こんな女だらけの所に大丈夫なのか……?」正直、俺は少し大丈夫ではない。


「何が?」うちの母さんには貞操観念が希薄なのかと危惧する。そんなに早く孫の顔が見たいのか。それとも女っ気のない俺の事を心配してこんな環境に……。


「荷物とかどうするの?あの部屋母さんの荷物が結構残ってるけど」他の部屋にあった不用品も押し込んでいる。


「まあ、短い期間だからそのまま使ってもらって構わないわ。私は気にしないから」そうでしょうね。


 まあ、この女所帯に俺の他に男が来てくれる事は正直言うと大歓迎である。重い荷物の運搬はいつも俺。あわよくば美桜の送り迎えも押し付けてやる。


 俺は自分がもっと楽が出来るようになればと祈った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る