第14話 君と鼻唄

「凄い!」美桜が体を乗り出して興奮している。そんなに乗り出すと後ろからパンツ見えるぞ。と言おうと思ったが止めておくことにした。


 展望台の最上階。

 大きな海が一望できる。先程の大きな客船が出港し海を渡っていく。波に太陽の光が反射してキラキラと輝いている。


「本当に綺麗だな……」心が洗われるようである。そんなに汚れてはないけれどね。


「ふふふん~♪」彼女が鼻唄を歌っている。それを聞いているだけでも美桜が歌姫と言われている事に納得がいく。本当に心地の良い感じになる。


「ねえねえ亮介さん!あれって観覧車ですかね!?」彼女が指差す先に確かに観覧車が見える。


「あっ、本当だ。あまり意識したこと無かったから気がつかなかったわ」今いるタワーからは少し離れているが海辺に面した大きなタワーマンションの近くに観覧車の姿を確認した。


「わー!いいなぁ!」なんだか乗せろと言われているような気がした。


「行ってみるかい?」俺は一応彼女の気持ちを確認してみる。


「えっ、いいんですか?」


「いいよ!」当然、返事はこれしかない。


 俺達は展望台を後にして、再びバイクに乗り観覧車へ向かった。流石に、こちらにはカップルの姿がちらほらと見えた。

 俺達は列の一番後ろに並ぶ。前には十組み程度の待ちがいるようである。


「……」美桜は酷く緊張しているようである。


「どうしたの?怖いの……」彼女の様子を見て少しだけ心配になる。


「だ、大丈夫です。亮介さんもついているし……」ああ、信頼していただいて光栄です。


「でも、美桜ちゃん……、高い所好きなんだね」展望台に続き、観覧車。次はバンジージャンプかもしれない。


「ひどーい!バカって言いたいんですか!?」プイッと膨れて横を向く。その仕草が可愛い。こういうのに世の男達は勘違いという地雷を踏むのであろう。


 俺達の番に回ってきた。籠に乗り込むと少しだけ揺れた。「きゃ!」彼女が俺の腕にしがみつく「ゴ、ゴメンなさい」いえいえ謝らなくても大丈夫ですよ。腕に当たった柔らかい感覚でご飯三杯はいけそうです。


 観覧車は回転していき高度が高くなっていく。展望台に似た景色ではあるが、二人だけの密室で少し緊張する。


「あの……」観覧車の籠が最も高い位置達した時、彼女は意を決したような表情で少しだけ前に乗り出した。


「どうしたの?」突然の彼女の変化に驚いた。


「あの昌子さんとは、本当に今は何でもないんですか?もう、好きではないのですか!?」どうして突然昌子の話題が!まさか……、昌子に気があるのか?百合、百合なのか!美桜ちゃん!!


「しょ、昌子?ああアイツ、モテるから俺なんか相手にしないよ。昔、フラレたしさ」何で、悲しい思い出を何度も語らせるの。思い出したくないんですよ。


「そうですか……、それならいいです」なんだか納得しない表情て彼女は遠くの景色を眺めていた。そんなに昌子が好きなのか……。


「今度は夜景が見たいね」昼間でもこんなに綺麗なのだから、夜景はさらに見応えがあるのだろうと思う。


「え!あ……、そうですね。そ、それじゃあ、今度は夜に二人で……」美桜が恥ずかしそうにモジモジしている。


「そうだね。今度は夜に来ような」そろそろ、観覧車も終わりそうな感じであった。


「はい……」なんだか顔を真っ赤にして嬉しそうに微笑んだ。


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