特別編4話 受け身の乙女な美少女は、僕の夢を見続ける
とでも思ったか? あとさらに1話、特別編が続くぜ。
※これは過去のボツになったものを改良したものです。時期は高一の9月ぐらいのもの。平行世界と思ってください。
「ん~美味しい……」
「そう?」
「うんうん、すっごい美味しい」
昼休み。いつものごとく、お弁当をいただいていた。
ふと、お弁当から顔を上げると、彩香さんはお箸を置いて頬杖をき、にひり、と笑ってこちらを見つめていた。
目が合って、ドキリと心臓が跳ねる。
「ど、どうかした?」
「ううん、なんでもない」
そう彼女は言いつつ、僕から目を離さない。僕は一旦お弁当に目を逃がし、それからゆっくり目だけを彩香さんに向ける……と、再び目が合った。
慌てて目を逸らせる。くすっ、と彩香さんが小さく笑ったのが聞こえた。
「な、なんでずっと見てるの……?」
「前も言った。柚の食べるときの顔が笑顔だから、嬉しくなる」
「そんなに見られると照れるんだけど……」
お米をかき込んで、顔を隠す。
見つめられるコトってこんなに恥ずかしいんだって知った、今日この頃――っ、キモいって自分で分かってるから何もツッコまないでください!
ココロの中でそう叫んで、お米を更にもう一口。咀嚼して飲み込み、水筒の水で歯の裏に突っ掛かった米粒を流す。
深呼吸。意を決して、顔を上げると、彩香さんはすでに僕を見つめていなかった。少し拍子抜けだが、こちらの方が好都合だと気を改める。
頬杖を突き、彩香さんを見つめる。
ココロを読まれると彩香さんに余裕が出来てしまいそうなので、脳内は彩香さんかわいい、の一言で埋め尽くした。
彩香さんかわいい彩香さんかわいい彩香さんかわいい……。
念じていると彩香さんの体がビクリと跳ねた。そして顔を上げ、おどおどと口を開く。
「っ――な、なに?」
「いや、なんでも?」
首を傾げてしらばっくれつつ、彩香さんの目の奥をじーっと見つめる。透き通っていてやっぱり綺麗だなって思う。
そして、ココロの中では念じ続ける。
彩香さんかわいい彩香さんかわいい彩香さんかわいい……。
同時、顔を耳まで真っ赤にした彩香さんは目をお弁当に逃がした。見つめていたことで僕の心拍数は上がり、脳みそに恥ずかしい、というワードが浮かびかける。
打ち消すために、さらに強く念じた。
彩香さんかわいい! 彩香さんかわいい! 彩香さんかわいい!
「きゃっ――や、やめっ……!」
彩香さんの悲鳴を聞きつつ、念じ続ける……うちに、ふと気がついた。
僕は何をやっているんだ?
念じるのをやめて、彩香さんを見る。と、おずおずと顔を上げた彩香さんが、少し潤んだ目で僕を見上げ、艶やかな口を開いた。
「も、もう、終わり? ——っ、わ、私はなにをっ——!」
慌てだした彩香さんを見て、そして我に返る。
我に返って自分の行いを思い返し——慌ててご飯をかき込んでお弁当を空にする。
「ちょっ、トイレ行ってくるから! うん、10分ちょうだい!」
お弁当に蓋をして、固まっている彩香さんにそう叫んで、僕は逃げた。逃げるしか、僕の心臓がドキドキで破裂するのを防ぐ手段はなかった。
*
教室に戻ると、彩香さんはすでにお弁当を食べ終えていた。
さっきまでの感情はリセットしよう、と彩香さんの態度が言っていたので、席について謝るだけにとどめる。
「ふぅ、ごめん彩香さん」
「べつにいい……だけどああやって叫ばれると聞かないようにしても聞こえてくるから……やめて欲しい」
「あ、ごめん」
「……やっぱりやめないで欲しい」
どっちだよ! と叫びかけた口を手で塞いだ。言ったらきっと、彩香さんはふて腐れる。
黙って残りのおかずを口に放り込んで飲み込む。
同時、飴玉を口の中に放り込んだ彩香さんが言った。
「もっかいだけ、言って?」
「っ……やだよ……」
「おねがい……結構嬉しかったし……」
「断る……」
「おねがいっ、何でもするからっ!」
「おけ、今すぐ言うけど声に出した方がいい? それともココロの中だけ?」
目的のワードが出た瞬間に早口に約束を取り付けて、僕は彩香さんの返事も聞かずにココロの中で大きく叫んだ。
彩香さんめっちゃ可愛いいぃぃぃいいい!!
*
「ねぇ、彩香さんさっきさ、何でもするって言ったよね?」
数分後、私は言質によって柚にいじめられていた。
「いっ、言ったはいったけど――そ、そんなのっ!」
「じゃあ嘘つきなわけ?」
「ちっ、ちがっ――」
否定するも、それが間違いだと悟る。
そのときには既に柚は私の後ろに立っていて、肩に乗っかる優しいその手に体を固められていた。
いや、ココロの片隅で期待した私が抵抗する私を殺していた。
耳元に聞こえる柚の弾んだ、少しダークな声に胸がトキメキを始める。
「じゃ、いっただっきま~す」
「まっ、ま――ひゃっ!」
耳の裏筋に、じっとりと湿った、固い歯が当たったのが分かった。耳のそばを過ぎる生暖かい吐息がくすぐったい。
「大声上げたら耳、食べるから。まぁ、僕のことが好きな彩香さんなら喜びそうだけどね」
「しゃ、喋らないで……く、くすぐったいから……」
耳全体を口の中に含まれる。舐められてるわけじゃないのに、じっとりとした水気を感じた。
柚に食べられている。その事実にどうしようもなく胸が弾んで、全てを柚に預けてしまいたくなる。
柚に包まれていることが全てで、その全てに体を委ねて、柚にめちゃくちゃにして欲しい。被虐心が芽生えて、どんどん大きくなる。
「柚……も、もっと……」
「はぁ、おねだり屋さんだなぁ」
「それはっ、柚がいつもより強気だからで……今日、ちょっと違う?」
「うん、違うよ。だって夢だもん」
「え?」
一瞬で目が覚める。
耳に手を触れる。全然濡れてない。夢だ、と悟る。
肘枕で折りたたまれていた腕を机に向かって突き伸ばして、その反動で立ち上がって叫ぶ。
「夢じゃねーかよ! ふざけんじゃないわよっ! 私のトキメキを返せ!」
「あ、彩香さん……?」
「なにっ! このクソ柚!」
おどおどと話し掛けてきた柚に八つ当たりすると、柚は困ったように顔を顰めて言う。
「僕がココロで叫んで直後に気絶したから……大丈夫?」
「っ……あ……」
どんな夢を見ていたかボロが出ることを危惧して、柚のせいだと大きく叫びたいのを我慢して席に座る。
なんであんな夢を見てしまったのか、それはもうよく分かっている。だって――
少し、夢見ていたのだから。
柚にあんなことをされることを……。
乙女回路が発動して顔が勝手に火照り出す。うぅ……恥ずかしいながらもこれが心地ぃぃ。
時計を見ると、休み時間も残り10分になっていた。
柚の机からはお弁当が消えているのをみると食べ終わったようだ。ちらっとカバンの中に目をやると、お弁当が二つとも入れられている。
「えと~さ、いろいろ錯乱してるとこ悪いけど。さっき何でもするって言ったよね?」
「えっ、あっ……。まぁ、そ……」
まさか、さっきのは正夢!?
これから柚にいろいろえっちぃことされて頭溶かされちゃって……きゃぁっ!
考えただけで鼓膜が柚の唾液で濡れてきた。
勝手に一人で盛り上がってるとこ悪いんだけど、と柚が先ほどと似たような文言で再度、前置きして言った。
「彩香さんのなめてる飴玉が欲しいな」
「むぅ……っ!? っ——!」
不満に思ってしまう。たかがそれだけのことか、とポケットから飴玉を取り出しかけて固まる。
不満に思うということは、もっと大きなことをお願いされるのだと期待していたということ。そしてそれは……えろっちぃことなんだってこと。
そんな自分に気がついて固まる。
数秒の間。
ぎこちなくも飴玉を取り出しかけて、再度固まる。
彩香さんのなめてる飴玉が欲しいな。
それは私が今なめている飴玉が欲しいということで、手に出して渡せばべたつくということで、つまりは口移しで欲しいってことで——!
さっきのが正夢なら、今の柚はきっとダーク柚様だ。なら精一杯奉仕せねばあたしゃ柚オタとしての尊厳を失うだべ。
――私の頭は狂っていたと、そう述べればこの脳内理論の説明は不要だろう。
柚は薄い笑みを浮かべて私を見ていた。ココロは読まずとも真意は伝わった。柚に口移しするのだ。
気がつけば椅子から腰が浮き、柚の頭をホールドして顔を近づけて——あとは唇を重ねて、飴玉を——
「——ってこれも夢なんかぁぁぁああっいっ!」
目がさめると、いつもの私の部屋の、天井が目に映った。
枕元には
*
「おはよ……柚……」
「お、おはよ、彩香さん……」
柚がいつもよりぎこちなく挨拶する。それに首を傾げながらも、二重夢に翻弄されて不機嫌な私は気遣う余裕がなかった。
だから、聞こえない。仮に聞こえても、理解できない。
「昨日……なんかその場のノリで耳噛んじゃったけど……大丈夫かな……?」
PS:没理由……柚が
んでもって話が急展開すぎてついていけない。
ちな、耳食べたのは「だって夢だもん」の直前までリアルに起こったこと。衝撃的すぎて彩香は夢だと思ってたとでも理解ください。
いろいろとPSで語ることが多いので、ボツにしました。
次回の番外編はいつになるのやら……。
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