特別編2話 有言実行の美少女は、僕をセフレにしたっていい


※第42話 合計1000点の美少女は、僕にお米を食べさせない ヨリ

 監禁調教の刑

 時期:特別編1話の2/15よりも前の話。




 目が覚めたら、空き教室にいた。

 夕日が差し込む窓はカーテンが閉め切られている。

 手足は椅子に縛られていた。


 彩香さんが、僕を振り向いて、言った。


「ってことで、柚。言ったとおり監禁の刑ね」

「いや、前もって監禁調教するねっ☆ って言われても知らんから! 有言実行とかいらないから!」

「ん~でも、いきなり監禁したら悪いと思って。逆に気遣いに感謝して」

「犯罪者が感謝を求まないで! でも手錠をSMプレイ用の痛くないゴムのヤツにしてくれてありがとう!」


 結局感謝してるじゃねぇかとか、そういうのは黙れ。

 手のひら返しをした……ことは認める。だって、感謝を求めるな! ってツッコんだ瞬間に彩香さんが僕を睨んだんだ。

 お笑いの精神よりも僕は生命の存続を選んだだけだ。


 彩香さんはニッコリ笑って、僕の膝の上に横向きに座る。

 その仕草が妖美でドキッとしてしまう。


「柚、大事なのは命。その次に私。柚は間違ってないから」

「うぉう……いや間違って――ッ!」

「柚のくせにナマイキ」


 視界がチカチカした。

 なにされてる?

 口の中でうごめくモノを噛まないように気をつける。

 状況を理解する。


「ひふぉふぉふふぃふぃ!」


 ――悟った。喋るだけ無駄だ。ココロの中で強く叫ぶことにした。


 人の口に手を突っ込むな! 吐いたらどうするんだ!


 彩香さんはにぃっと口角を上げて、小悪魔に笑う。


「海の時の約束、覚えてる?」

「……?」

「溺れたら……わ、私の、心臓マッサージしてくれるってこと……。その、だから……き、キスとかするし、胸とか触るって約束……」


 監禁する側が照れてどうするんだよ! とツッコミかけた。

 ココロを読んだのか、彩香さんは僕を恨めしげに睨んだ後、デコピンをする。意外にも優しくて思わず感謝しかける。

 縛られてる時点で感謝なんてワードは存在しないだろ、なんて言葉は求めない。


「そ、それでっ、柚が私にお願いしたでしょッ!? 人工呼吸ッ!」

「そ、そうだね……」


 覇気と言うには投げやりすぎる語気の強さに戸惑う。


「ま、まぁそれで、柚の人工呼吸もするからっ……げ、ゲロとかそういうのはもう別に柚のなら……別に柚のなら平気だから……」


 ぽっと頬を染めてうつむいた後、キッと顔を上げて僕を睨んだ。

 甘く焦がされるように胸が焼ける。初めての切ない痛みだった。


「今の忘れて」

「いや、無理。可愛すぎ」

「調教時間三割増しね」


 語尾が『死ね』としか聞こえなかった。


「柚、紆余曲折あったけど、とにかく柚はこれから私に調教されるんだから」

「わ、分かったけど……できる?」


 首を傾げて、挑発するように言う。

 彩香さんを真っ赤っかに爆発させる必殺の言葉を必死に頭から消し隠す。ココロを読まれてしまったら攻撃力は皆無になってしまうからだ。


「なんで? できないとでも?」

「うん、だって僕は――」


 僕の言葉を察したのか、彩香さんがつばを飲む。


「僕は、もう彩香さんに染まっちゃってるからね。染めるだけ無駄だよ?」

「ッ――」

「さ、解いてよ。こんな調教なんてされなくてもさ、僕は彩香さんのものだから」


 朗らかな笑みを作る。

 と、彩香さんはふんわりとはにかんで、だけど目から光を抜いて言った。


「ココロの声はダダ漏れだから。私をおだてて抜け出す? ココロの口をホッチキスで閉じた方がいいと思うけど」

「っ――!」

「あ~あ、折角ぎゅーって抱きしめて終わりにしてあげようって思ってたのに。……もう、逃がさないからね?」


 彼女は、悪魔は、僕の膝の上で子供のように笑って、一転して妖美に僕の首に腕を絡めた。



 *



「あの〜さ、彩香さん」

「なに?」

「僕たちの関係って何?」

「ん〜……セフレ?」

「ぶっ——!」


 お昼休み。

 水筒を傾けて、その中に口の中のものをぶちまける。

 彩香さんはきったな、と吐き捨てるように言って、顔をしかめた。彩香さんが悪いんだよ! とココロの中で抗議しておく。


「せ、セフレって!」

「じゃあケモフレ?」

「著作権を気にしなさい!」

「ツッコミが平凡……ん〜……やっぱセフレ?」


 彩香さんは首を傾げて、純真無垢な顔で言った。

 その顔に、性的な言葉を使ってるとき特有の笑みが見えない。

 まさかとは思いつつ、ココロで聞きつつ首をかしげてみせる。


 セフレの意味、わかってる?


 ココロを読んだのか、彩香さんがもう一度、こてん、と首を傾げた。可愛い、とココロに漏らすと顔を真っ赤にさせた。


「彩香さん、セフレの意味、言ってみてよ」

「……? 普通よりも仲のいい男女のことじゃないの? あと少しスキンシップの激しい」

「スキンシップってどれぐらい?」

「それは……」


 そこで彩香さんは顔を赤くして顔をふせ、ちらちらとこちらを見ながら続ける。

 その瞬間に僕は気づいたよ。

 あぁ、こいつわかってねぇな、って。


「手、つないだりとか……き、キスだったりとか……」

「……正式名所はセックスフレンドです」

「せっ——!? な、なんてそんなっ!」


 そこからひとしきり慌てた彩香さんは数秒待ってと僕から顔を隠した。そして振り返り、髪をふぁさぁ〜ってさせてクールな顔で僕を見る。


「それぐらい知ってたけど?」

「数秒前の自分を見返す?」


 まるで人間の慌て様じゃなかったけど。

 ココロの中で続けると、彩香さんが僕を睨んだ。

 そしてちょっと頬を染める。


「ま、まぁそのせ……セフレが、せっ……せ、性交のための友人ということは知ってたわ」

「口調をお嬢様ぶらなくていいからね?」

「黙りなさい。それで——なに? 柚は私と性交したいわけ?」

「ん〜興味はあるけどしたくないな〜って、何言わせてるんだよオイコラ」


 いろいろとツッコむのが面倒になってきたので職務放棄することにした。適当にノリツッコミだけしておく。

 ご飯をかきこんでそう言うと、彩香さんがショックそうな顔をする。そしてどんよりと落ち込んだ。


「……そっか……」

「え、えと〜……せ、責任持てるまではさ、傷つけたくないし……世の中『あなたとだったら心中するわっ♡』とかロマンチックなことが通用するわけでもないし。

 ……ってかなんで僕と彩香さんがセックスする前提になってるわけなのさ! おかしいでしょ!」

「せっ——性交って言ってよバカっ!

 ……まぁ、大事にされてる感あったから合格。幸せだった。で? その……誰かさんが豪快に脱線させた話戻すけど」


 その誰かさんはお前以外の誰がいるんだ。

 呟いたら死にそうだったので黙ることにした。


 つぶやけば、命短し、せみしぐれ


「ん? なぜ俳句?」

「なんでもない。それで?」

「えと……まぁ、柚がせ、せふれとかそう言うの、なりたいって言うなら、仕方なくだけどなってあげる……から」

「……誘惑しないでよ」


 恥ずかしくなって目を伏せると、彩香さんが赤い顔で、にひひって笑った。

 そして言う。


「いつでも待ってます♡」


 やめてよもう。

 呟いたら、彩香さんが僕の後ろに回り込んで、後ろからしなだれかかってきた。

 耳元で囁かれる。


「柚、いろいろと好き」


 頭から湯気がたったのが自分でもわかった。

 ただ、思う。セフレとか、やだ。


 普通に、カレカノになりたい。


 彩香さんに聞こえていたのか、ボンとなにかが爆発する音が聞こえた。







PS:次回、第2部予告。

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