金食い虫

北満輝

第1話

金食い虫。

それはなんとも恐ろしい。

体は小さく、力も弱く、能力も低い。

何もできないが、金を喰う力は一人前。

成人男性が稼いだお金の半分は腹に消える。

想像しただけで恐ろしい。

あゝ恐ろしい。




目の前の板に貼られた紙に数字が書いてある。僕は自らの手元にある紙を見つめた。

『426』

目の前の板にはその数字は無かった。


僕は今まで何をしてきたのか考えた。

「なんでも1番」を目標にしてきた。

幼稚園生から中学生まで。ずっと。

何故なら身内の中で1番頭が良かったから、期待されていたいたのだ。

だから僕は頑張った‘つもり’だったのだ。


家に帰って僕は、家族に伝えた。

母は泣き、祖母は悲しそうに微笑み、妹は心配そうに僕を見つめた。ただ父だけがいつも通りだった。


公立高校に落ちた僕は学費の高い私立高校に行かなければならなかった。

僕の家庭は世間帯で考えると真ん中と言えば良いだろう。

だがしかし、高い学費を払うには父の所得だけでは生活が難しく、母はパートにでなければならなかった。


丁度一学期を終えた頃、母は今までよりも疲れ切った顔で僕を呼び出した。

「真斗。学校はどう?慣れた?」

「うん。慣れたよ。」

僕はすんなり答えた。

「ならよかった。これみて頂戴。」

そう言って見せられたのは、僕が通う高校の学費の請求書だった。

「これね、一学期分の学費の請求書。

今月で、60万払わないといけないの。」

「え、そうなの?」

僕は思わずそう聞いてしまった。

あまりにも高かったからだ。

「勉強は頑張ってるの?」

「もちろん。先生にも褒められたし、国立大学を狙うつもりだよ。」


「そう。でも別に貴方が勉強しようが、しないだろうが、私たちは貴方のためにお金を払い続けないといけないのは、変わらないから。」

僕は、胸が痛くなった。

「ありがとう。母さん。もっと頑張るよ。」

「本当。家ではご飯が出て、仕事の代わりに勉強して、遊んで、寝た上にさらに人のお金まで取っていくなんて。」

だから、子供って金食い虫なのよ。


僕は今までで1番自分を殺したくなった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金食い虫 北満輝 @kita1002

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る