第174話:どの種目に出ましょうか?
「勇也君はどの種目に出る予定ですか?」
昼休み。いつものようにカフェテリアで五人そろって昼食を食べながら、楓さんが体育祭の話題を出した。放課後に誰がどの種目に出るか決めるので今のうちに俺達だけで相談しておいた方がいいよな。
「勇也はクラス対抗リレーに出るよね? 去年はあと一歩のところで優勝逃したから今年は優勝したいね!」
珍しく伸二が闘志を燃やしているが、その気持ちは痛いくらいわかる。俺と伸二、そして二階堂の三人は去年クラス対抗リレーに出場したが優勝することが出来なかった。
「でも今年は勝てるさ。なにせ楓がいるんだしね」
「え、私ですか!?」
二階堂の指名に楓さんは驚いた様子だが、むしろ楓さん以外に最後の一人は考えられない。
クラス対抗リレーは男女二人ずつの計四人で行われる。当然のことながらクラス内で足の速い者が選ばれるのだが、勝敗を決するのは男子ではなく女子のスピードだ。去年俺達が負けたのは二階堂に次ぐ二人目がおらず、そこを俺と伸二でカバーしきれなかった。だが今年は違う。
「楓ちゃんの50mのタイムは7秒6だからね! 哀ちゃんの7秒5に次ぐ学年二番目の好タイムだよ! ヨッシーとシン君を合わせたこの四人は最強メンバーといっても過言ではないね。優勝間違いなしだよ!」
大槻さんは拳を掲げて気の早い勝利宣言をするが無理もない。俺達四人はおそらく校内屈指の最速メンバーだ。特に楓さんと二階堂の二人に敵う女子生徒はいないはずだ。転んだりバトンを落としたりミスをしなければ負けることはまずありえない。
「ただやってみないと結果がどうなるかわからないのが勝負事だからな。油断せずに行こう」
「はい! 勇也君に勝利のバトンを繋いでみせます! 当日は頑張りましょう!」
おーとやる気十分の楓さん。これなら去年のリベンジは問題なく果たせるな。あと考えておく競技は何があるかな。
「ん……騎馬戦は強制出場だし、クラス対抗大繩はリレーと違って全員でやるし、考えるとしたら玉入れ?」
明和台高校の体育祭は徒競走といった個人競技はほとんどなく、その多くがチーム競技で構成されているのが特徴だ。一致団結して皆と競い合うことで絆を深めることが狙いだとか何とか。
「玉入れなら秋穂ちゃんですね! 去年もダントツで上手でしたし!」
「フッフッフッ。それに今年は楓ちゃんだけでなく哀ちゃんもいるからね。明和台歴代最速記録を狙っていくぜ!」
不敵な笑みを浮かべながら珍しく静かに闘志を燃やす大槻さん。明和台高校の玉入れは〝時間内に玉を入れた数を競う〟のではなく、〝決められた数の玉をどれだけ速く入れるか〟を競うルールだ。これは公式ルールであり、玉入れの正式名称は
「秋穂、バスケ部だからって期待しないでね? 私も去年出場したけどすごく難しくて全然入らなかったから……」
「あぁ、確かに二階堂は苦戦してたな。そう言えば去年俺達のクラスは最下位だったような───?」
「ねぇ、吉住。私の失態を掘り起こして何が楽しいのかな? 恥ずかしさに耐えながら最後まで一生懸命玉入れをした私をいじって楽しいのか!?」
顔を真っ赤にした二階堂が俺の胸ぐらを掴んでガクガクと激しく揺らす。あぁ、なんだか久しぶりだな、この感じ。二年生になって初かな?
「まぁまぁ、哀ちゃん落ち着いて。大丈夫、私がコツとか教えてあげるから練習しよう? それでヨッシーを見返そうよ!」
「うぅ……秋穂ぉ……よろしく頼む。見てろよ、吉住。秋穂と楓と力を合わせてギャフンと言わせてやるんだから!」
「はいはい。期待しているし応援するから頑張れよ」
ポンポンと肩を叩くとその場で悔しそうに地団駄を踏む二階堂。楓さんはともかく、二階堂がこうしてころころと表情が変わるのは珍しくて新鮮だな。ついからかいたくなる。
「むぅ……最近わかりましたが勇也君は時々S君になりますよね。それでいて鞭と飴の使い方が絶妙なのでドキドキが止まらなくなります」
少し頬を膨らませながら楓さんがそんなことを呟いた。いや、俺は別にSではないと思うけどね? だからといってその反対ってわけでもないのだが。そしてこれに当然のように大槻さんが食いついてきた。
「ほほう……楓ちゃん、その話詳しく聞かせてもらいましょうか?」
まるで芸能リポーターがインタビューするかのように大槻さんは楓さんに尋ねた。楓さんが口を開く前に、
『わかっているね、楓さん? 余計なことは言わないように』
『わかっていますよ、勇也君。変なことは言いませんから!』
とアイコンタクトで会話をする。うん、これっぽっちも安心できないのは何故だろう。前科があるからかな? などと思っていたらこのフラグは見事に回収された。
「最近の勇也君はですね、ちょっとからかったら突然後ろから抱きしめてきてイケボで〝今夜は寝かさないよ、楓さん〟って言ってくるんです!」
キャッ、と赤面して両手を頬にあてて照れる楓さん。いや、自分で言っておいて照れないでくれ。そしてよりにもよってなんてことをなんて場所で暴露したんだ!?
「わぉ! ヨッシーイケメン! 見直したよ!」
「よ、吉住にそんなことを言われたら……ハッ! 私は何を考えて!?」
腕を組んで感心する大槻さんと何故か耳まで赤くなっている二階堂。つい先ほどまで体育祭の話で熱くなっていたのに、気が付けば女子会ムードに早変わりしていた。しかも話題が話題なだけに穴があったら入りたい。
「いやぁ……知らない間に大人になったんだね、勇也」
「うるせぇよ、伸二」
とりあえずニヤニヤして小馬鹿にしてくる伸二の頭を叩いておいた。
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