第168話:初代バカップルのイチャイチャ
ボーリングを終えた俺達はいったん施設から出て近くにあるファミレスに入って昼食を食べていた。
「無理だよ! これ以上は許して秋穂! 本当に恥ずかしいから!」
「ふっふっふっ。シン君、残念ながら敗者に拒否権はないのだよ。諦めて私のあ―んを受け入れたまえ!」
満面の笑みを浮かべた大槻さんがパンケーキを食べさせようと伸二に突き付ける。顔を真っ赤にして俺に助けを求める視線を送ってくる親友に対して、俺は心の中でご愁傷さまと手を合わせた。因果応報だ。甘えてくる楓さんに俺が困っているのを笑っていた罰だ。ちなみにその楓さんだが、大槻さんに頼まれて二人のやり取りを撮影している。
「なるほど。これが明和台高校の初代バカップルの実力ですか。見誤っていました。これは楓ねぇと吉住先輩に匹敵するレベルですね……」
「そうじゃなきゃバカップルなんて呼ばれたりしないよ。吉住と楓みたくところかまわずイチャイチャしていない分まだマシだけど、逆に言えばそこしか差はないから」
感心した様子でもきゅもきゅとパスタを食べる結ちゃんと、肩をすくめながらアイスコーヒーを飲む二階堂。
この惨状からわかると思うが、ボーリングの結果は勝ったのは楓さん&大槻さんチームで、負けたのは伸二&結ちゃんチームだ。
下手だと話していた二階堂だが全然そんなことはなかった。ストライクこそ少なかったが確実にピンを倒してスペアも何度かとって確実にスコアを伸ばしていた。というか、投球を重ねるごとに上手くなっていた気さえする。
「うぅ……秋穂は恥ずかしくないの? 二人きりの時ならまだしもみんながいる前でこんなことをするなんて。あと一葉さん、お願いだから写真を撮るのはやめてくれないかな?」
「安心してください、日暮君。写真は撮っていませんから」
楓さんの〝安心してください〟ほど信用できない台詞はない。その証拠に楓さんはにっこり笑って、
「安心してください。秋穂ちゃんと日暮君が楽しそうにしているのをしっかりばっちり動画で撮影していますから」
と死の宣告をした。その瞬間、伸二はムンクの叫びのような表情となった。シャッター音が聞こえてこなかった時点でその可能性に至っておくべきだったな。残念なことに君が何回か大槻さんにあーんをしてもらっている様子はばっちり撮影済みだ。
「勇也ぁ! 君は一葉さんが動画撮影をしていることを知っていたんだね!? それなのに僕に教えないだなんてひどすぎるよ!」
「ハッハッハッ。大槻さんも言っていただろう? 敗者に拒否権はないのだよ、伸二君。存分にイチャイチャするといい。無礼講というやつだ」
「無礼講の使い方として正しいかはどうかはさておき、存分にイチャつかれても困るよ、吉住」
いい加減にしてくれとばかりにため息をつく二階堂。
ちなみに結ちゃんへの罰ゲームはない。むしろ何もしないことが彼女への罰ゲームだ。なぜなら自ら、〝私の罰ゲームは楓ねぇにあーんしてもらうことでお願いします!〟って言ったくらいだからな。そのお願いを叶えないことが一番の罰だというこが満場一致で決定した。
「いいなぁ……私も楓ねぇにあーんってしてもらいたかったなぁ。昔はよくしてくれたのになぁ」
愚痴をこぼしながら大盛パスタを完食した結ちゃんは食後のデザートとして注文したパフェを食べ始める。甘いものは別腹という言葉がここまで似合う子はそうそういないだろう。最初に大槻さんが言っていたお昼ご飯おごりという話は無しになった―――さすがに不公平が過ぎるからな―――のは本当によかった。もし負けておごりなんてことになったら俺の財布の中身は間違いなくすっからかんになって、楓さんに泣きつく羽目になっていたな。
「結ちゃんは昔からよく食べる子でしたから。それでいて体型は変わらないので羨ましいです」
苦笑いしながら言う楓さんに対して結ちゃんはハイライトの消えた瞳でどこか遠くを見つめながらぼやいた。
「どうせ私はいくら食べても変わらない寸胴体形ですよ。楓ねぇや大槻先輩と違ってナイスバディにはなれませよぉ」
大きなため息をつきながら豪快にパフェをすくって頬張る結ちゃん。横に座る二階堂はうんうんと頷いて可愛い後輩を慰めるように頭を撫でる。いやいや二階堂さん、どちらかといえばあなたも楓さん達側の女子だからね?
なぜなら男子たちの間で楓さん、二階堂、大槻さんの三人は明和台の三大美少女と秘かに呼ばれているくらいだからな。圧倒的に男子人気の高い楓さんや大槻さんに比べて、二階堂は男女から幅広い人気を得ている。2月の抱えきれないくらいのバレンタインチョコを貰っていたのがその証拠だ。
「二階堂先輩だって楓ねぇと同類ですからね? この間の球技大会で二階堂先輩に一目ぼれした女子はたくさんいるんで! あと、二階堂先輩も十分巨乳ですからね!? すなわち私の敵です!」
ガウガウと吠え出す結ちゃんは悲しいことにこのメンバーの中においては一番発育が遅れている。だが決して幼児体型というわけではなく、あくまで楓さん達と比べたらの話だ。だからそのなんだ、泣くな結ちゃん。きっといつか楓さんのようになれるよ!
「うわぁあああん!! 吉住先輩が一番ひどい! 傷ついたので吉住先輩のおごりでこのスペシャルパンケーキを注文しますね! すいませ―――ん!」
「ちょっと結ちゃん!? まだ食べる気なの!? というか頼もうとしているの地味に高いやつだよね!? それは勘弁してくれないかな!?」
「ごめんなさい、勇也君。今回ばかりは私も擁護できません」
楓さんに見放された俺は、1000円近くするパンケーキを結ちゃんに奢ることになったのだった。
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