第131話:楓さんと二階堂のコンビは最強?

「張り切り過ぎだよ、勇也。いくら一葉さんの前だからって本気出しすぎ」


 試合は無事に勝ちました。楓さんは途中でバスケの試合の準備のためにグラウンドから―――二階堂に首根っこ掴まれて―――離れたけど、十分すぎるパワーを貰った。これで負けるはずがない。


「貰った分、今度は僕たちが応援しないとね」

「そうだな。まぁ楓さんと二階堂のコンビならバスケ部手主将が率いるクラスでも負けないさ」


 むしろこの二人がいるうちのクラスは優勝候補筆頭だ。楓さんと二階堂、例えるなら孫〇空とベ〇ータ、もしくはキ〇キの世代の青〇君と赤〇君が共闘するようなもの。負けるはずがない。


「そんなことより。俺達が応援できる場所はあるのか? 楓さんと二階堂が出る試合だから観客はすごいことになっているんじゃないか?」


 楓さんと二階堂という明和台高校を代表する美少女二人が出場する試合は間違いなく人気のカード。その初戦ともあれば誰もが見たいと思うはずだ。さすがに体育館内に入ることが出来ないってことはないと思うが、俺達の席があるのかどうかは怪しい。


「あぁ、それなら大丈夫だよ。秋穂に頼んで僕達の分の席は確保してもらってあるから。ほら、茂木達に何か言われる前に早く移動しよう」


 そうか、その手があったか。大槻さんはこの球技大会の試合には参加しない、いわゆる応援組だから席取りも可能だな。ただ茂木達の分までは確保していないだろうから、伸二の言う通り絡まれる前に移動しないとな。


「勇也の応援を受けた二人がどんな活躍をするのか楽しみだね! 初戦から大暴れしたりして」

「まぁ……楓さんはその可能性があるかもしれないけど二階堂はどうだろうな? 本気の姿を見てみたいとは思うけど」

「そこはほら、勇也が『二階堂、頑張れ!』って声援を送ったらぐぐ―――んと能力値が上がって無双モードに入ると思うよ?」


 俺の声援にステータス補正があるのか? というか二階堂はそこまで単純じゃないだろう。こんな簡単なことで無双化するとは思えない。


「そう思うなら試してみればいいんじゃない? きっとすごいことになると思うよ?」

「そこまで言うか。しかもその顔は確信しているな? なら、試してみるか」


 まぁそれで楓さんだけでなく二階堂も大爆発して試合に勝てるなら、いくらでも応援するさ。それこそ声が枯れるまでな。


「いや、それはこの後の試合に響くから自重してね?」


 わかってるよ、伸二! それくらいの気持ちを込めるってこと意味だよ! だからそんな飽きられたような顔をしないでくれ!



 *****



 試合開始前だというのに、体育館は異様な熱気に包まれていた。これから行われる試合を一目見ようと、中に入れなかった生徒達で入り口はごった返していた。ここはアイドルのライブ会場か?


「シン君! ヨッシー! こっちだよぉ! 早く! 早く!」


 人の波に逆らうようにかき分けて進み、やっとの思いで体育館の中に入ると、上の方から大槻さんの声が聞こえた。そちらに目を向けると、ぴょんぴょんと跳ねながら手を振っている姿が見えた。ただそのせいで楓さん以上の果実が大変なことになっており、男子の視線がそちらに集まっている。


「…………ッチ」


 伸二が静かに舌打ちをし、笑顔で身体から怒気を放つ。その無言の圧に気圧された男子たちはバッと視線を逸らした。伸二の独占欲も大概だからな。


「人の彼女を変な目で見るからだよ。勇也だって一葉さんがそういう目で見られたらイラッとくるだろう? それと同じだよ」


 まぁ、そうだな。もし楓さんをそういうイヤらしい目で見るような男が近くにいたら、タカさん仕込みのがんを飛ばしてしまうかもしれない。それでも止めないようなら―――うん、その時はその時だな。


「あぁ……くれぐれも怪我だけはさせないようにね?」


 伸二が引きつった笑みを浮かべて言った。何を言っているんだね、伸二君。俺は優しくて紳士的な男だよ? そんな暴力を振るうなんて真似、するわけないだろう?


「二人とも! 何しているの! 早くおいでよぉ! ハリーアップ! ASAP!」


 可及的速やかにA S A Pに来いと言われてしまったので俺と伸二は駆け足で大槻さんのもとへと向かった。彼女が応援席として確保していたのは体育館の二階。コート全体を俯瞰して見られる絶好の観戦ポイントだった。


「フッフッフッ。どうだね、ヨッシー? ここからなら楓ちゃんと哀ちゃんの活躍を余すことなく見ることが出来るだろう? だから全力で応援するんだよ!?」


 ビシッと人差し指を向けながら、わかった!? と聞いてくる大槻さんに俺は苦笑いしながら頷いた。気合入っているな、大槻さん。


「当然だよ! 男女アベック優勝したら焼き肉食べ放題だよ!? 全力で応援するに決まっているじゃん!」

「身も蓋もないことを……そういうことなら俺達、というか伸二の応援はいいのかよ? 男子も優勝しないとダメなんだぞ?」

「あっ、男子は大丈夫。シン君はもちろんだけど、楓ちゃんの声援を受けたヨッシーの能力値は最大まで上昇しているから。いわゆる俺tueeeeってやつ?」


 声援一つでそこまで強くなれるわけがない。せめてハグをしないと、ってそう言えば試合前に後ろから抱きしめられたな。だとすれば納得だな、うん。


「もう、秋穂も勇也もくだらないこと話してないでコートを観なよ。試合、そろそろ始まるよ」


 伸二に促されてコートに目をやると、楓さんと二階堂を擁する我が二年二組の選手がコート中央に並んでいた。対するはバスケ部主将率いる三年四組。初戦から優勝候補同士の激闘が始まろうとしていた。


「楓ちゃん! 哀ちゃん! みんな頑張れぇ!!!」


 大槻さんが声援を送る。俺も声をかけないと―――!


「楓さ―――ん!! 頑張って―――!!」


 俺の声に反応した楓さんがニコッと笑ってVサインを向けた。やる気も気力も十分のようだ。その隣にいる二階堂もこちらに顔を向けていた。その目が「私には何もないのか?」と訴えているように思えた。仕方ない。


「二階堂!! かましてやれ! 負けるんじゃないぞ!!」


 言い終わると同時に俺は拳を突き出した。それを見た二階堂はフッと不敵な笑みをこぼし、背を向けながら小さく拳を掲げた。任せろと語るかのように。


「頑張れ、楓さん、二階堂」


 祈るように呟いたのと試合開始の笛とともにボールが宙を舞ったのは同時だった。

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