第126話:楓さん、本気モード

 突如決まった楓さん対二階堂のバスケ対決に我がクラスは大いに盛り上がっていた。コートを半分に分けて男子も同時に行うはずが、いつの間にかフルコートで行われることになっている。いいのかそれで。


「ねぇ、勇也はどっちを応援するの?」


 例にもれず、俺も伸二と一緒にコートの端に立って試合が始まるのを待っていた。両陣営は円陣を組んで作戦会議をしているのを眺めていると不意に伸二が尋ねてきた。そんなの聞くまでもないことだろう。


「楓さんに決まっているだろう? わざわざ聞くなよ」

「アハハ。まぁそうだよね。いくら一葉さんでも二階堂さんには勝てないと思うけど、勇也が応援すればもしかしたらがあるかもね」


 そう言って伸二は笑う。いつも楓さんには応援してもらっているが俺が応援する機会は滅多にないのだが、まさか体育の授業で声援を送る日がくるとはな。しかも二階堂が相手という劣勢な状況のおまけ付きだ。


「フッフッフッ。違うな、間違っているよ、ヨッシー。君は楓ちゃんの実力を見誤っているよ!」

「大槻さんがどうしてここにいるの? 試合はいいの?」

「それを聞くのは野暮ってものだぞ、ヨッシー! 私が超人二人の戦闘に割り込めると思うの!? 言うなればあの二人の対決はラン●ロットア●ビオン対紅●聖天八●式だよ! 凡人の私は足手まといになるだけだよ!」


 よりにもよって機体名という絶妙にわかりにくい例えをする大槻さん。もっと他にあるだろう。孫悟●対ベ●―タとか。って、今はそんなことはどうでもいい。楓さんってそんなにすごいのか?


「すごいってもんじゃないよ! ヨッシーは初めて見るかもしれないけど、楓ちゃんってば運動神経凄くいいんだよ! 去年の球技大会は一回戦で足を捻挫するまで誰にも止められなかったんだから!」

「……マジで?」


 マジでだよぉ! と大槻さんが興奮しながら叫ぶのを聞き流しながら、俺はコートに立つ楓さんに目をやった。中央に立ち、二階堂と早速ジャンプボールで対峙している。わずかだか身長は二階堂の方が高いが果たして―――


 ピィ――――――!


 審判役の藤本先生が笛を鳴らしながらボールを高く上げた。二人はほぼ同時にジャンプをして空中に浮かぶボールに手を伸ばす。空中戦を制したのは楓さんだった。


 そこから流れるようなパスワークで二階堂陣営を翻弄しながらゴールに迫る楓さんチーム。そしてゴール前、絶好の位置でボールを受けた楓さんの前に二階堂が再び立ち塞がる。


 外から見ていてもヒシヒシと二階堂の圧が伝わってくる。楓さんが立っているのはシュートを打つには少し遠いスリーポイントライン。ドリブルで切り込んでシュートを打つのがセオリーだがそう易々とはいかないだろうし、二階堂もさせるつもりはないはずだ。


「―――フフッ」


 楓さんの口角がわずかに上がった。それに気が付いたのは俺とおそらく対峙していた二階堂だけ。


「―――なっ!?」


 バスケ部エースの予想を裏切り、楓さんはシュートを放った。綺麗な放物線を描きながらボールはゴールへと向かい、静かにネットを揺らした。歓声が体育館内に響き渡る。


「へぇ……やるじゃん、一葉さん」

「フフッ。勇也君が観ていますからね。カッコいいところ見せないといけませんから」

「そっか……なるほど、そういうことなら私も手加減しないからね?」


 バチバチと火花を散らす二人。応援の熱がますます上がる外野席。俺の隣ではそれ見たことかとドヤ顔をしている大槻さんと感心したように呆けている伸二。かくいう俺は―――


「楓さん……カッコイイ……」


 スリーポイントシュートを放った楓さんに見惚れていました。え、なに今の。めちゃくちゃカッコよかったんだけど!? 流麗なフォームから放たれたシュートはそれだけで絵になるほど美しかった。この手にスマホがないことが悔やまれる。


「ヨッシーの目がハートになっているけど……大丈夫かな?」

「放っておくのがいいと思うよ。それに……これで二階堂さんにも火が付いたと思うからさらに盛り上がるんじゃない?」


 誰の目がハートマークになっているだって? まぁ否定はできないので口をつぐむが、伸二の言う通り楓さんの度肝を抜く先制攻撃で二階堂が完全本気モードになったのは間違いない。


 二階堂は笑顔でチームメイトを鼓舞しながらボールを中央へと運んでいく。二階堂のポジションは司令塔。本来はバシバシ得点を稼ぐフォワードらしいが、この状況においては自分がボールを回したほうがいいと判断したのだろう。それに、司令塔が攻撃参加できないわけではない。


「行くよ……一葉さん」


 リズムよく、ゆったりとした歩調でドリブルをしながら楓さんとの距離を詰める二階堂。


 不敵な笑みを浮かべる明和台高校バスケ部エースが楓さんに牙を剥く。


「楓さーーーーーーん!! 頑張れぇーーーーーー!!!」


 俺は目一杯の声援を送る。頑張れ、負ける。頑張れ! 負けるな!


「ねぇ、シン君。いつからスポコンになったの?」

「こら、秋穂。そういうことは言わない約束だよ」


 二人も応援しろ!!



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