第91話:お揃いのパジャマが欲しいです!

 夕食を食べてから帰宅したときにはすでに時間は21時近くになっていた。俺はリビングの椅子に腰かけて身体を伸ばしながらソファに座る楓さんと梨香ちゃんに目をやった。二人は仲睦まじく過去の特撮ヒーロー映画を熱心な様子で観ている。


「あぁ……楓さん、梨香ちゃん。映画を観るのもいいけどいい加減着替えたら? せっかくの新品の洋服にしわがつくよ?」

「いいんです! お風呂に入るまでこのままで! ねぇ、梨香ちゃん!」

「うん! 楓お姉ちゃんとお揃いのお洋服だもん! ずっと着てたいだもん」

「もう! 梨香ちゃんは本当に可愛いですね! それなら明日はお揃いのパジャマを買いに行きましょうか! それを家に置いておけばいつでもお泊りに来れますね!」

「それいい! うん、そうしよう! いいでしょう、勇也お兄ちゃん!?」


 俺としてはやぶさかではないのだが、頻繁に家に遊びに来るようになったら多分タカさんが号泣するんじゃないかな? そのうえでたぶん俺は締められる。俺の梨香に何をしたぁ! とかね。


「もちろんだよ、梨香ちゃん。可愛いパジャマ、選ばないとね」


 タカさんがいくら怒っても最終的には梨香ちゃんの涙の訴えには勝てないのだ。それに最終兵器「もうパパなんて嫌い!」がある。これを言われたが最後、タカさんは灰のように真っ白になるだろう。


「勇也君のお墨付きも頂いたことですし、明日はパジャマを買いに行きましょうね! 私も春夏用のパジャマが欲しかったところなのでちょうどいいです。お揃いの可愛いやつにしましょうね」

「それなら勇也お兄ちゃんもお揃いにするのはどうかな!? 三人で同じパジャマ着て寝るの!」

「それは名案ですね! というわけで勇也君、明日もお買い物ですがいいですか? いいですよね?」


 俺に拒否権はないし拒否するつもりもない。楓さんとお揃いのパジャマを着るというのも悪くないどころかむしろ良い。今のモコモコな感じもいいが、春夏用となれば一体どうなるのか。薄手になって肌色が増えるのか? そんな姿で誘惑されたら―――


「ねぇ、楓お姉ちゃん。勇也お兄ちゃんがすごく難しいそうな顔をしているけどあれは何を考えているのかな?」

「むむっ。あの顔はきっと私と梨香ちゃんのパジャマ姿を妄想している顔ですね。きっとエッチなことを考えているに違いありません」

「楓さんの可愛いパジャマ姿を考えて何が悪い。きっと楓さんのことだからキャミソールにショートパンツの組み合わせを選んで俺のことをからかうつもりなんだろう?」


 ぎくぅ! と今時ありえないくらい古典的かつわかりやすいリアクションをしてくれたので俺の妄想は確信へと変わる。これは明日の夜は覚悟しないといけないかもしれないな。いや、本番は梨香ちゃんが帰った後の夜か?


「あっ、今の顔は梨香でも分かるよ! 勇也お兄ちゃん、きっと楓お姉ちゃんとイチャイチャすることを想像している! もう、そういうこと考えたらだめだよ!」


 デリカシーがないんだから、と梨香ちゃん。解せぬ。それを言うなら今君を抱きかかえている楓さんの顔を見てくれ。にへぁらと今にもよだれを出しそうな顔をしているぞ? あれこそまさに『あんなことやこんなこと』を考えている人の顔ではないのかね?


「えへへ。勇也君が私とイチャイチャする妄想を……ぐへっ」

「か、楓お姉ちゃんが壊れた……」

「いや、これが楓さんの通常運転だよ、梨香ちゃん」


 だってそうじゃなきゃ、同棲初日の夜にお風呂に突撃してこようなんてしないだろうし、翌朝には本当に突撃してきた。ぎゅぅってしてくれないと眠れませんとか言わないだろう。まぁ楓さんを抱き枕にするのは俺としても幸せだから異論はないのだが。


「……二人はラブキュア! だね。梨香が帰ったらイチャイチャするの?」

「どっちが白でどっちが黒かな? いや、そうじゃなくて。別に梨香ちゃんが帰ってもイチャイチャしないからね?」


 梨香ちゃんが冷たい眼差しを向けながら年齢を疑いたくなるボケをかましてきたので反射的に反応してしまったが肝心なのはその次の発言だ。梨香ちゃんが帰っても別に普通だよ? 普通に……イチャイチャするだけか。


 画面では主役戦士が劇場版限定の最強フォームに変身して敵にキックをお見舞いしていた。


「……勇也お兄ちゃんの馬鹿」


 必殺技を食らって爆散する怪人の気持ちがわかった気がした。

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