第2部 平凡なわたしと、闇を抱えた彼の話
7章 風と鳥の図書館
1話 おみやげの秘密
夏休みが明けて、9月。学校も新学期を迎えた。
「レイチェルー! おっはよー!」
「あっ、おはよ~ メイちゃ――」
「覚えてる? メイちゃんだよ!?」
「お、覚えてるよ……どうしたの」
「やー、なんか久々だなーって」
なぜか食い気味に自分アピールするメイちゃん。……そこまで久々だっけ?
「夏休み長かったもんねぇ」
「今年も旅行行ったんでしょ? どこだっけ」
「レザンの方まで」
レザンは、ロレーヌ西部の観光地。
ぶどうが名産で、ワインもかなり有名らしい。
「ほ――っ! つまりぶどう関係のお土産があるってことね!?」
「……! う、うん! ぶどうじゃないけど、はいこれ!」
メイちゃんに、買ってきたお土産を差し出した。
「ふぉ――っ! これ『ふかふか雪玉チョコ』じゃん! 高級品だべ!? もらっていーのー!?」
「どうぞどうぞ……ふふ」
メイちゃんの目がキラキラ輝いている。それを見てわたしはちょっぴり罪悪感を覚えてしまう……。
実は、実はこの『ふかふか雪玉チョコ』はグレンさんにあげるはずだった物。
たくさん買った中でこれがメインだったのに、渡しそびれてしまった。
そして、間違って『ご当地かどっこちゃん付ぶどうジュース』を渡してしまったのだ。
かどっこちゃんのふわふわもちもちの、けっこうな大きさのぬいぐるみがおまけでついていたジュース。
あれは、メイちゃんに渡すはずのものだった。
そして、そして……。
「ああああぁ~~~……っ」
「ひゃんっ! 何何!?」
「ごごごごごめん……なんでもないの……」
「え――っ、どこがー!? おーしーえーろー!」
「なんでもないの! 頭振りたかっただけなの!」
急に頭抱えてブンブンしだしたわたしにメイちゃんが軽く体当たりしてくる。
でもでも、これは教えるわけにはいかない……!
◇
「うううう……」
自宅のベッドでうつぶせになって、枕に顔をうずめる。
目の前には、ぶどうを持ったかどっこちゃんのぬいぐるみ。
――そう。そうなの。これはメイちゃんとおそろいにするために買ったの。
それを、それをグレンさんに……! 成人男性26歳に……!
かどっこちゃんを……! ぬいぐるみを……!
しかも、しかも、おそろい……!
(信じられない、も――――!)
おそろいなんて知られたら恥ずかしくて死んじゃう……!
そんな間違いする!? わざとかな!?
だからといって返してもらうわけにも……!!
『なんでかどっこちゃんを俺に?』って思ってるだろうなああぁぁ~~~??
あとあと、数日経っても未だに思い出してドキドキしちゃう、あれ。
「いつもと違っていいんじゃないか」
「今日の姿はかわいいと思う。髪下ろしている方がいいな」
(ひ――――――っ!!)
枕に顔をうずめたままジタバタジタバタ。
なんで? なんで?
グレンさんといえばこう……よく分からない発言で煙に巻くような、独特で変な流れになっちゃうそんな会話くらいしかしなくて。
『かわいい』とか発するキャラではないですよね!?
カイルがやってきて行動を共にすることが多くなったから、ちょっとキザなのがうつったのかな??
カイルはよく挨拶代わりに『今日もかわいいね』とか言ってくるもん。
……それか、大人だから普通にそういうこと言っちゃうのかな?
でもでもそれでわたしがどれだけ動揺したことか……!!
あの日も砦の自室のベッドでどれだけジタバタジタバタしたことか。
(あんまりドキドキさせること言わないでほしい……)
だって、8歳も年上の男の人。絶対片思いだし、うまくいくはずない。
それなのに、気持ちに気付いてからはもっともっと彼のことを知りたいと思ってしまっている。
カイルと喧嘩しそうになった時、すごく怒ってたな とか。
あまり感情見せない彼があの時どういう気持ちだったのかな とか。
どういうことを考えてるのかな?
どうして、自分の紋章は好きじゃないのかな?
どういう過去を過ごしてきたのかな?
どういう女性を好きになるのかな?
……わたしのことは、どう思ってるのかな?
「はぁ……」
やっぱりわたし、彼女になりたいとかって思っちゃってる。
わたしはぶどうを持っている『かどっこちゃん』を手にして、見つめ合う。
(グレンさん、このかどっこちゃん持っててくれてるかな……?)
間違って渡しちゃって、グレンさんに全然似合わないし、いらないかもしれない。
でも捨てちゃったりしてませんように。ルカとかフランツにあげてませんように。
ドキドキ、もやもやの新学期が始まります……!
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