3話 妙な三人組とステキな砦
翌日、オレ達はギルドの前に集合した。ルカはグレンにくっついてきていた。
「家に来たりしなかったんか」
「ああ、大丈夫だ。『来るのを控えられたらパンケーキを食わせてやる』と言っておいた」
「……大変だな」
◇
出前を運んだりとかはしたことがあるけど、冒険者ギルドに入って内部をじっくり見るのは初めてだった。
ガチムチの戦士とか武闘家とか、魔法使いとかなんかそれっぽいのが色々いる。
ギルドマスター? みたいな奴もいる。ガチムチだ。強くないとタチの悪い冒険者が来た時対処できないのかもしれない。
正直冒険者だのギルドだの、オレには関わりのないものだと思っていた。
学校卒業したあとは料理人やってるけど、他は町役場に就職考えてたくらいだし。
壁の掲示板には色んな依頼が貼ってあった。
(手紙、荷物の配達、護衛、魔物退治、採取、採掘、宝物の散策、傭兵任務……ふーん。そういやオヤジも昔冒険者で腕鳴らしたって言ってたっけな)
オヤジはガチムチの剣士だった。
前住んでた街には、近所にオヤジと昔パーティ組んでた斧戦士のおっちゃんも住んでいた。こっちもガチムチだった。
母親同士も仲良くて家族ぐるみの付き合いもしていた。二人共筋肉フェチらしい。
ところでそのおっちゃんのとこには娘がいた。
2コ下なのに背がでかくてオレと同じくらい、背の順でもずっと後ろだったらしい。
昔は弟も一緒になってよく遊んでいたが、成長につれなんとなく付き合いがなくなった。お年頃ってやつだ。
そこの街から引っ越してきて、今年で5年目に入る。
親同士はやり取りをしているみたいだが、ソイツが今どうしているかは知らない。
わざわざ連絡を取ろうという気にも、ちょっとならない。
◇
「ジャミル君。ちょっといいか?」
「えっ ああ……」
ボーッと掲示板を見ている間にグレンが貸し砦についてギルドの「賃貸担当」の人間に尋ねていたらしく、話を聞くことになった。
「賃貸担当」って。そんな部署あんのかよ、ギルド奥が深ぇな。
で、砦の賃貸相談の部屋へ通された。そんな部屋あんのかよ、ギルド奥が深ぇな。
――話によれば、砦を借りるには条件があるらしい。
一つ冒険者ギルドに登録済みであること、二つ定期的に冒険に出ているパーティであること、三つ冒険に出た記録はギルドに上げること。
「ただ借りてるだけじゃダメってことか……教会行きてえだけなのに。ちなみに家賃? っつーか、レンタル料は」
「月70万」
「ななっ……!? たっか!! オレの給料の3ヶ月分でも足りねーぞ!」
ちなみに酒場の厨房でのオレの月給は22万だ。
「まあ、それは大丈夫だけど。俺金持ってるし」
「か、金持ってるっつってもよ……」
「あー、ちなみに半年契約ですとー、350万になりますよぉ」
オトクでしょう? とばかりにギルドの担当者がニコニコと言う。語尾がいちいち伸びる。つか、高ぇわ。
「一ヶ月まるまるタダってことか? お得だな」
「お得か!? 350だぞ!? しかも半年って」
「半年で呪いが解ける保証がないだろう」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
そう聞くとげんなりする。
半年……いやひょっとしたらそれ以上の期間、こいつらと行動を共にしないといけない。
しかも砦を借りたら最後、砦を借り続けるためになんか冒険まで出かけないといけない。
オレは絶対に嫌だ。それなのになぜかグレンは乗り気だ。
「……アンタ、なんか乗り気じゃね? なんでなんだよ」
「乗り気というわけじゃない。厄介払いできるなら月70万払っても痛くないというだけだぞ」
「……」
『厄介』ってのはルカのことだろう。今もグレンの横にイスをピッタリくっつけて座っていた。
そんな言われようだとさすがに気の毒になるが、じゃあオマエの家に泊めてやれよと言われたらそれは困るので黙っていた。
「ここの砦なんてどうですー? 森に囲まれて、野鳥の声なんかも聞こえて静かでのどかですよぉ」
グレンの反応を見てか、ギルドの人間がグイグイきはじめる。
「森に囲まれた静かでのどかな砦……それは砦なんですか?」
グレンは『砦』にくっついている牧歌的な言葉にあごに手をやりながら首をかしげる。
(確かに、それだけ聞くとロッジとかコテージっぽいな……。ってか、なんでそんなステキなところで野鳥の声聴きながらわけわからん連中と一緒にいなきゃなんねえんだ。
クソッ、なんでオレはあんな剣を拾っちまった)
「まあでも、訓練場や瞑想室に、飛行動物の発着場もありますし、必要な施設は一通りありますよ。それにー、厨房が立派なんですよぉ」
「……厨房」
「はいー。最近厨房の設備をリフォームしまして、最新の設備が入っておりますー」
「最新の設備……」
「はいー。前使ってらした方が壊してしまいましてー。オーブンなんかがですねぇ、いいやつになりまして。今でしたら風と氷と水の魔石それぞれ3セットついてきますよぉ」
『厨房』関係の単語に反応したオレを見て、ギルドの人間は今度はオレにロックオンしてきた。
「いやいや……、まだそこにするって決めたわけじゃ。そもそも借りることだって決めてない――」
「いや、そこに決めよう」
「……は!?」
「ここからならギルドも近いし、アディントンの街とか王都へのアクセスもいいから出発しやすい。それに他の所は少し賃料が高いみたいだし――」
そう言いながら、グレンは渡された砦の写真付き資料をペラペラめくって見比べている。
「マ、マジで言ってんのかよ!? 冗談じゃねぇ――」
「――すみません。ちょっとメンバーで話し合いしたいので、席を外してもらっても?」
オレが大声を出し始めたからか、グレンがギルドの担当者に笑顔で促す。
「あ、あ、はいー!」
担当者の女は少し顔を赤くしながら退室していった。
「――だから、借りるためには冒険者登録してパーティ組んで冒険出なきゃなんだろ? アンタオレと冒険したいのか!? オレは嫌だからな!」
「安心してくれ、俺も嫌だ。……斬りかかられたくないし」
「く……っ」
そう言われちゃ何も言い返せない。
「毎週末教会に行ったり呪いを解く情報集めをするんだから、よその街に行く機会もあると思う。ギルドでその街が目的地の軽い依頼を受けておいてこなしていけば、一応借りる面目は立つんじゃないかと思うが」
「そりゃあ、そうだけど……けど70万って」
「まあ金は心配いらない。……そういえばルカは金は持っているのか」
「カネ。ヒトはカネを作り出した。カネはヒトが作ったモノでも最下級のモノ。ヒトはカネで魂のやりとりをしている汚い存在」
「「…………」」
(クソ怖ぇ……!)
言わんとすることは分かるけどめちゃめちゃ怖い。
横を見ればグレンもかなり引きつった顔をしている。確かにこれが家に押しかけてきたらイヤだろうな……。
話し合いの末、オレたちはその「森に囲まれた静かでのどかな砦」を借りることにした。
ルカはここに仮住まい。金はグレンが出す。オレはルカのメシを作ることになった。
昔、弟と幼なじみと3人でこっそり森で猫をかくまって餌をやったりしてたことを思い出した……。
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