2.オレの夕飯はトマト抜きのナポリタン

『いやー、FORKもだいぶ変わったよね。コラボ機能とか、ナニコレって感じ。誰かちょっと使ってみない?』


 懐かしさに心がじんわりと温かくなった。俺がこのアプリを始めたばかりの頃、気さくに寄り添ってくれたその本人の声。ほぼ半年ぶりに聞くその声は、以前と何も変わらずあった。


次郎

「こんばんは」


『あ、次郎さん、ハロハロー! 多分オレの名前読めないと思うんで、一応自己紹介しておきますね。呉井心(くれいはーと)って言います。クレしんちゃんとか、そんな感じで気軽に呼んでくださいね~』


 初めてこの配信に来た時と同じ自己紹介を受ける。懐かしい。


いちご

「あれ? 次郎さんって、前にどこかで会ったような……」


ねぐせ君

「はじめまして~」


古美

「次郎さん、はじめまして」


 変わらぬ面々に安堵感がこみ上げてくる。俺にFORKの楽しさを教えてくれた、最初の仲間たちだ。


次郎

「以前に1度お邪魔させていただいてます。ので、お久しぶり、ですかね」


『あれ、そーだっけ? オレ記憶力弱いから、忘れててごめんねー! まぁ、なんもないけどゆっくりしてってよ』


児島

「呉井は変なところだけ記憶力いいからな」


グングンぐると

「肝心なところはからきしですよね」


ぴゑんマン

「それもまたクレしんちゃんのよきところ」


 アルコールのせいだろうか。見慣れた名前が並ぶ画面を見ていると、視界がぼやけてくる。


『で? 誰かコラボ使ってみようぜ! 手、空いてる人いないの?』


いちご

「勉強」


児島

「料理」


古美

「親がいるのですみません」


グングンぐると

「えー、だるい」


ぴゑんマン

「ボクは聞き専だから無理ですね~」


ねぐせ君

「僕もちょっと忙しいですぅ~」


『ねぐせのその「すぅ~」が腹立つな~。なーんだ、みんな忙しいのか~。せっかく新機能使ってみようと思ってたのに~』


 FORKに新しい機能が実装されたのか。どんなものなんだろう。


次郎

「コラボ?ってなんですか?」


『設定のところからエントリーできるらしいんだけど、配信者と通話できる機能なんだってさ! どんな感じなのかオレは試してみたいんだけど、みんな忙しいとか言っちゃってさ~。……そうだ! 良かったら次郎さん、コラボしてみる?』


ねぐせ君

「ほぼほぼ初見にぐいぐい行くぅ~」


いちご

「次郎さん、嫌だったら無理して受けなくていいですからね?」


児島

「この場合、優しいんだか、鬼なんだか分からんよな」


ぴゑんマン

「イイネ! そういう雑な振り方ボクの好物~」


 クレしんさんと、コラボ。通話をすれば、声で只野人間だとバレてしまう。気まずい。次郎なら、過去を知られず、またいい関係が築けるかと期待していたのに。


 でも。


次郎

「わかりました。コラボお願いします」


『おおっ! 次郎さん、ノリいいね! そういうの好きよ、オレ』


グングンぐると

「ぐいぐいのクレしんに次郎さんはどう立ち回るのか…!」


古美

「次郎さん、どんな方なんでしょうね。ワクワクします」


 深呼吸をひとつ、ふたつ。公園の澄んだ空気がアルコールを少しずつ溶かしていく。


 覚悟を決めて、コラボボタンを押した。

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