第2話  堂々といちゃいちゃできる可能性

今日は愛美とデートの日だ。


本来はそんな予定はなかったのだが、親睦を深めるという名の世間への仲良しアピールですることになった。


ということは。


「…………………堂々と…………か」


愛美と一緒に居ても誰にも咎められない。


こんな日が来るなんて。さすがに度を超えてしまうと不審がられるが、手を繋ぐ程度であればきっと大丈夫だろう。


今まで犬猿の仲の振りをしているだけだったから、堂々と仲良くできる機会なんてなかった。


ああ、楽しみ過ぎて眠れそうにない。




~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~




私には神嶋涼人すずとという許嫁がいる。


私のことを好きだって言ってくれて、ほんとに優しくて。頑張り屋さんで、尊敬できる人だ。


私は、涼人のことが大好きだ。


家の事情から、嫌おうとしたこともあったけど……どうしてもだめだった。胸の奥からあふれてくる幸せな感情を止めることなんてできなかった。


私達の恋には障害は多いけど、私が涼人を誰よりも愛している自信はある。




そして!


「……でーとだ…」


胸の内から喜びの感情がじわじわとしみだしてくる。


いままでこんなことはなかなかできなかった。でも今回は親の意図と私たちの利点がかぶったからできるのだ。


いちゃいちゃできるのだ!!


「………ふふふ……」


涼人とデート……


緊張するけど、でもやっぱり楽しみ。ベットの上で足をぱたぱたとさせる。普段ははしたないと止められることもあるけど、今この部屋には誰もいない。


上手いこと言いくるめて一人にしてもらった。いつもは監視としてつけられているのだけど。


メイドの人たちは正直苦手だからちょうどいい。いまは、涼人君への愛をさらけ出しても誰にも見つからない……


できれば涼人君には届いてほしいけど……それは明日直接伝えればいいから。


「……大好き……涼人君大好き……」




楽しみ過ぎて寝れそうにもない……


……楽しみだなあ……涼人デート……ちゃんとかわいいって思ってくれるかな…気合い入れて服選ばないと……





………………


………





当日、朝メイドには起こされなかった。


どうせ、嫌がらせでもしようと思っているんだろう。枕のすぐそばに置いてあるスマホの目覚ましで目を覚ました。


一応食事は出してくれる。ただ一人で寂しいけど……


今日は涼人君とデートだ。落ち込んだ気分でいたくない。絶対楽しみたい。


「……いただきます…」


一人の部屋に私の言葉だけが響く。朝ごはんはちゃんとおいしかった。最近私も料理を学んでいるだけに、これがどれほどのレベルだか良くわかるようになった。


「…おいしい」


それが本職だから当たり前なのだろうけど。でも、私も料理上手になりたい。いつか涼人君に自信をもって料理を振舞えるようになりたい。


「ごちそうさまでした…」


一人で皿をもってキッチンのほうに下げに行く。さすがにそこには人はいるけど、私のことを見るとそそくさと視線をそらしてどこかに行ってしまった。


とりあえず、服を選ばなくちゃいけない。


一応社長令嬢ということもあって、服はたくさん持っている。なかなか自分ではうまく選べないけど……


今日は涼人君とデートなのだ。気合いを入れて選ばないと……



私はクローゼットと鏡の前を行ったり来たりした。




………………


………




~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~!~?~



服装に気を遣うというがよくわからなくて、すぐそばにいた使用人にどういう服を選べばいいのか聞いてみた。


「坊ちゃんは、相手にどう見てもらいたいのですか?」

「そうだな……」


この使用人も含め、数人の女中や、俺の身の回りの世話をする者、そして母親には事情を話してある。


だから基本的には味方だ。ただ、父親の権力が強すぎるのだが。


「なるべくいい印象を持ってほしいことは確かだな」

「……では、なるべく見てくれがよくなるように自分で吟味なされたらどうでしょうか」

「……そうだな、分かった。ありがとう」


これが仕事ですので、と言って俺からゆっくりと離れていく。


「……何にするかな」


クローゼットの中にはいくつか服は入っている。


どれがいいのかよくわからなくて、結局無難なのを選んでしまった。



時間まで待ちきれなくて、予定の出発時間の三十分前には車に乗り込んだ。


「楽しみなんですね」

「楽しみだぞ。かなりな」

「……坊ちゃんがこうやって自分の感情を表に出すようになってよかったですよ。如月様には感謝ですね」


運転手の話だと、以前の俺はいつも無表情で自分の感情を表現することがなかったらしい。


それが愛美と婚約したことで変わったと、本当の子供のことみたいに喜んでくれた。




まだ朝早い街の中をあまり早くつかないようにゆっくりと車を走らせてもらった。




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