689.お芋デイ
のんびりとした村の一日――。
広場の隅っこでイスカミナが焚き火をし、芋を焼いていた。
「もっぐもぐー。いい香りがしてきたもぐねー」
「ええ、本当に香ばしいですね」
同席しているのはアナリアである。
学生時代、ふたりはよくこうして焼き芋をしていた。その頃は貧乏生活であり、学院の裏庭で焼き芋をしては食費を浮かしていたのだ。
「この芋はいい芋もっぐ。きっとおいしいもぐよー」
「……学院の芋は外れもありましたからねぇ」
食中毒になったことは一度もないが、常においしい芋を掘り当てられるわけでもなかった。
ぱさぱさの芋をかじっていたのも、今では良い思い出……にはならないが、それなりに趣はあった。
「もっぐもぐー」
芋はアナリア特製の薬剤によって不燃となった布に巻かれ、焚き火に放り込まれていた。
この不燃布が大切であり、あるとないとでは出来上がりが全く違うのだ。
「おや? あれは……」
アナリアが広場の奥に目を向ける。ぽにぽにっとコカトリスたちとララトマの姿であった。
「お散歩もぐね〜」
イスカミナが杖で不燃布に包まれた芋をコロコロ。
まだ出来上がりには時間がかかりそうであった。
と、コカトリスが立ち止まり――くむくむと顔を動かしている。
「ぴよっ!」(お芋の匂いがするっ!)
「ぴよよ!」(これは甘みがあるお芋ですよ!)
ぴよ、ぴよよ。コカトリスが羽をバタバタさせながら会議を始めた。
そして少しすると――コカトリスたちは揃ってアナリアとイスカミナと焚き火に視線を移し始めた。
「ぴよちゃんたちが……」
「もっぐ?」
「こっちに来ます」
ぽにぽにぽに。
コカトリスたちは迷いなくふたりのところに駆け寄ってきた。ララトマも早足でついてくる。
「どうどうどう、です! どうしたんですか?」
「ぴよ……!」(お芋がある……!)
「ぴよよ!」(これはお祭りのときのお芋に近い雰囲気だと思うんですよ!)
コカトリスの様子から、なんとなくアナリアとイスカミナは察する。
「多分、お芋に惹かれたんだと思います」
「もぐ。大丈夫もぐ。お芋はたくさんあるもぐ〜」
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