672.冒険者ギルドの前で

 それから数時間、空を飛んで村が見えてきた――森に囲まれた巨大な大樹の塔。

 それがヒールベリーの村だ。


 この季節になるとさすがに普通の樹木は葉が少なく、色も変わる。

 しかし魔法製の大樹の家や塔は、地力がある限り緑の葉が生い茂っている。

 なので遠くから見ると、はっきりと村の位置がわかるのだ。


 そして……広場の真ん中では黄色いナニカがいくつも、ちょこちょこ動いている。


「あれはコカトリスか?」

「そうだな。ダンスしているようだ」


 じぃっとよく見ると、確かにコカトリスだ。


「よく見えるな」

「コカトリスが集団でちょこちょこ動いているなら、まずダンスだろう。他にあるのか?」

「い、いや。そうだな……」


 コカトリス理解度はヴィクター兄さんのほうが遥かに上だ。

 しかし考えてみるととても不思議ではある。実家にいた頃から……こうだったかな?


 そんな感じで村の入り口、冒険者ギルドの前に降下する。


 ウッドとレイアがぐーっと身体を伸ばす。


「ウゴ、帰ってきたー!」

「帰ってきましたね!」


 ついてきた砂コカトリスたちは、興味深そうに村を眺めていた。


「ぴよぴよ」(ほうほう、ここが……)

「ぴよぴ」(食べ物の雰囲気を感じる……!)

「ぴよぴよー」(みどりがいっぱいー)


 きょろきょろと周囲を見て、楽しそうなのが伝わってくる。まずはよかった。


「荷物はこれか。じゃあ、また」

「もう行くのか? 紅茶くらい飲んでいけば……」

「悪いな、そうしたいが帰って学生の課題を採点しなければ」


 そう言うとヴィクター兄さんは砂コカトリスに近寄っていった。


「名残惜しいが、いったんお別れだ」

「ぴよよ?」(んに?)


 もふもふもふ。

 しっかりとヴィクター兄さんは砂コカトリス全員と握手すると、宙に浮かんだ。


「じゃあな」

「気をつけて、コカ博士」

「ウゴ、さよならー!」

「また会う日まで……!」


 軽く羽を掲げると、ヴィクター兄さんは高速で飛び去って行った。


 うーむ。ステラたちが来るのも待たなかったか。

 よほど忙しいんだな……。


 見ると、入れ違いでステラ組が冒険者ギルドに降り立ってきた。


「ただいまです……!」


 やっと村に帰ってこれたわけだ。

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