635.進むか引くか

「マズいな。また砂嵐か……!」

「うう、風も強くなってきましたね……」


 ステラも髪を押さえている。

 テントは張ったが、砂嵐までは想定していない。


 もし宮殿にきたような砂嵐になったら、全て吹き飛ばされてしまう。


「ぴよよ。ヤバぴよね」

「わふ。でも少しだけ……魔力の流れがわかるようになっているんだぞ」


 マルコシアスがぺしぺしと地面を叩く。

 俺も新しい砂嵐が見えてから、魔力の脈動を感じ取れるようになっている。


 いわゆる、どるどるぅーってやつだ。


 地面の下を太いパイプが走り、そこに液体が流れているような……そんな感覚だ。


「これは自然現象なのか? それとも人工的な現象か?」

「うーむ、自然でこんなに魔力が急激に集まることはありえないはずだ」


 ヴィクター兄さんが大急ぎでトマト煮込みをかきこんでいる。中々シュールな絵だ……。

 一方、ナナは煮込みはすでに食べ終わっていた。


「そうだね、ダンジョンが自然発生するときはもう少し緩やかだし。砂嵐みたいな現象が一緒に起きることはすごく稀だ」

「ということは――まだ遺跡に何かある、それが砂嵐を呼び起こしているということか」

「その可能性は高いと思います!」

「ぴよ! ぴよよー!」(食べ切ったぁ! それで、どーする!?)


 砂コカトリスは煮込みを食べ終えて、すごくいい笑顔だな。


 どうする……ここから退避するか。それとも地面の下の魔力を追うか。


 しかし今ここで退避しても次の目算はあまりない。

 結局また塔の遺跡に戻らなければならない。


 対して今ならまだ、砂嵐も小さい。もっと近づいて情報が得られれば打開策になるかもしれない。


「……あの砂嵐はどうにかできるか?」


 俺が黒い砂嵐を見上げると、ステラが頷いた。


「まだ風も弱く小さいですし、塔の上から攻撃できるんじゃないかと……!」

「僕もそうだね。塔から鞭は届くはずだよ」


 ふむ、やはり宮殿のときと状況は違うな。

 取り得る選択肢がある。


「地面の下の魔力を追えるか?」

「ぴよ! あたしはできるけど……この子にも聞いてみるぴよ!」

「ぴよ?」(うぇーい?)


 ぴよぴよぴよぴよ……。

 ディアと砂コカトリスがぴよぴよしている。


 もし地下に流れる魔力が追えるなら、ここは勝負所だ。懐に飛び込んだほうが、きっといい。

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