628.塔の根本

 階段を登った先も当然、砂漠だ。

 俺の目にはほとんど変わらないように見える。


 倒された魔物は砂で覆って隠されてるな。

 ナイス処置である。


「ぴよ! あれが宮殿ぴよか!?」


 ディアが遙か後方を羽で指した。

 目を細めると、小さな黒い影が浮かんでいる。


 コンパスを取り出したナナがふむふむと頷いていた。


「そうだね、あの方角が宮殿だ」

「ウゴ、まだまだ黒くて大きいね」

「わふー。小さくなっている気配はないんだぞ」


 やはり自然消滅を待つのは時間が掛かりそうだな。


「むっ、また魔物の気配が……!」


 ステラが耳をぴくつかせる。


「ふむ……やはり生息地の真ん中だと、次から次にやってくるな」


 これだと非戦闘員を連れてくるのは、かなりリスキーだな。安全確保が難しい。


 ヴィクター兄さんがふよっと風魔法を展開する。


「いちいち相手をしていてはキリがない。はやく遺跡に向かおう」

「そうだな、飛び越えていこう」


 というわけで、再びばびゅーんと移動する。


 何度か休憩を挟みながら移動すると、目的とする遺跡が見えてきた。


「ぴよー! あれぴよー?!」

「わっふふー。おっきいんだぞー!」


 遺跡は崩れかけた塔だった。円筒形の塔のうち、上部と右半分が崩れてなくなっている。

 全体はくすんだ砂色で、大きさは……直径数百メートルはあるだろうか。


 前世で言えば、巨大ビルが半壊しているみたいだな。ヴィクター兄さんが飛びながら羽をぴこぴこさせている。


「とりあえず塔の根本へ行こう」


 ずざぁっと塔の根本へ着地する。

 時刻はまだ昼前だ。探索する時間は大いにある。


「ぴよー」

「わふー」

「ウゴー」


 子どもたちは一斉に塔を見上げている。

 ふむ……縦に長い建物としては、ここまでのは初めてかもな。


 大樹の塔より遥かに高い。

 この塔のデカさは想像以上だが、俺は気になったことがあった。


「魔力がかなり濃いな」


 ふにっと羽を振ってみる。

 なんとなくだが、見えない霧をあおいでいる感じがする。魔力が濃いとこうした感覚が強くなる。


「ふむ……妙だな。資料にはそこまで魔力が濃いとは記載がなかったが」


 ヴィクター兄さんが羽を組んで塔を見上げている。


「魔物の生息地と同じか、それ以上ですね……」


 ステラも同じ意見のようだ。

 やはり、この遺跡に何かが起こった――ということだろうか。

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