584.Pスタイル

「そういえば、足の裏や気温は大丈夫なのか?」


 俺はきゅむ、きゅむっと歩くマルコシアスに声をかける。

 犬は高温がダメとかよく言うからな。

 ……狼だけれど。


「我もレベルアップしてるんだぞ。問題ないんだぞ」

「さすがマルちゃんぴよ!」

「気合で頑張ってるんだぞ」

「無理はダメぴよよー!?」

「本当に大丈夫なんだぞ。母上の謎歩行術の応用なんだぞ」


 これはきっと、水の上を走るあの技術のことだな。

 俺はこっそり忍者みたいだと思っている。


「な、謎ではないですよ。総合して……ぴよっぴ術とでも名付けましょうか。ぴよちゃんたちを観察することで身につけた技なのです」


 そこでレイアがのけぞる。


「私もそのお話は初めて聞きましたが……?!」

「わたしも初めて言いましたね」

「ぴよ! 足元が熱くないのも……ぴよっぴ術ぴよ?」

「ええ、魔力の精密なコントロールにより、周囲の環境の影響を極限まで低減させるのです」

「足に魔力の靴下を履くような感じだぞ」

「ウゴ、わかりやすい」

「極めると3日徹夜でも平気になったり、数時間潜水できるようになります」


 ナナとヴィクター兄さんはぽよぽよと頷く。


「いきなり極端な話になったね」

「ふむ、半分人間を辞めてるな」

「やはり、これは難しい技術なんだよな?」


 俺の質問にヴィクター兄さんはふもっとハンドを上げる。


「もちろん。魔法使いの学院でも習うことはないし、習ってもできるものでもない」

「魔力を魔法以外に使うのは難しいんだよね。まして身体能力に還元したりするのは……超人だよ」


 ということらしい。

 まぁ、おかげでマルコシアスは砂の上を楽しそうに走れてはいるが。


「ぴよっ! おっきい砂のお山ぴよー!」

「だっぞぞー!」


 小高い砂の丘を踏みしめる。

 風が吹くたびに、ぱらぱらと砂が飛ぶ。


 ふむ……ここの砂はやけに細かいな。しかもさらっとして、柔らかい。


 下手な服だと入り込みそうだが。

 もっとも世界最高レベルのこの着ぐるみには、無用の心配ではある。


 ディアとマルコシアスは小走りに砂の丘を登っていく。


 そして丘の上で伸び跳ねながら、


「ぴよよ〜、滑るぴよー!」

「ずざーだぞー!」


 ズザザァー……。


 ディアとマルコシアスが一気に丘を駆け下りる。


「楽しそうですね」

「ウゴウゴ、気持ち良さそう!」

「ウッドも楽しんできたらどうだ?」

「ウゴ! そうする!」


 そう言うと、ステラが俺の羽をにぎにぎと揉む。


「エルト様も楽しみましょう、ちょっとくらいは……!」

「ああ、そうだな。砂から駆け下りるくらいは……ん?」


 見ると、ナナとヴィクター兄さんが腹ばいになっている。


 まさか……。


「先行くよー」

「ここでは歩くより早い」


 ズザァー……!


 ふたりともそのまま、お腹を滑らせて砂の丘を降りていった。

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