555.干してみる?

 バーベキューが終わった頃には雨が止んでいた。

 ふむ、帰る前にちょうど良かったな。


 片付けを終えた俺達は湖から村へと戻ってくる。

 持って帰ってきた貝類はブラウンへ任せた。


「にゃーん。生簀で様子を見ますにゃん」

「ああ、頼んだぞ」


 マルデ生物は生息数がそれなりに多いこともわかってきた。ただちに取り尽くすことはないだろう。

 なので近々、ザンザスへ送って食べてみてもらう予定だ。


 魔法具で保存しながらなので、相当に高くはなるが……。


 あっ、そうだ。

 それならステラにも見せてみようかな。


「悪い、ちょっとだけ貝をもらってもいいか?」

「もちろんどうぞですにゃーん!」


 俺はブラウンから袋に詰めた貝をいくつかもらった。

 ウッドにはピンときたらしい。


「ウゴ、かあさんなら何か別の料理にするかも!」

「あるいは俺が料理してもいいかもな」


 ホンビノス貝は砂抜きをしなくても大丈夫だった。もしステラに貝料理のアテがなくても、ワイン蒸しで十分おいしいしな。


 ◇


「貝ですか……!」


 家に持って帰るとステラは目を輝かせる。


「ぴよ! 貝料理、つくるぴよよ?」

「すこーしだけ違います。干すのです」

「干物にするんだぞ?」


 この世界では前世に比べて干物の需要はまだまだ多い。ステーキのような肉の食べ方は贅沢であり、ハムやベーコンが一般的だ。


 まぁ、生や冷凍での保存技術が魔法具頼みだからな。どうしても高価になってしまう。


 なので輸出できるとしても、せいぜいザンザスまでと思っていたのだが……。


「なるほど、干し貝柱か」


 中華では割とポピュラーだな。

 保存食でもあるが、おつまみにもなる。


「エルフ料理でもよく使います……。ホンビノス貝はよく取れたのですか?」

「ああ、割と取れたぞ。雨の日だからかはわからんが」

「ウゴ、大漁だった!」


 ステラがふむふむと頷く。


「では干し貝柱に挑戦してみましょうか……!」


 ステラは早速、干し貝柱を作り始めた。

 木箱に水とホンビノス貝を入れ、砂抜きを始める。

 といっても湖は淡水ではあったが。


「さっきは結構大丈夫だったけどな」

「初めてなので、ちょっとだけ丁寧に……」


 ディアがぴよぴよとステラにたずねる。

 未知の料理に興味津々だった。


「こんやのおゆーはんは、かいぴよねっ!」


 羽をぱたぱた。かわいい。

 そこでステラはにっこりと微笑んだ。


 あっ、この微笑みは……。


「残念ですが、干し貝柱は3日くらいかかりますね」

「がーんぴよ!」

「でも大丈夫です……! 焼くのは今夜、できますからね!」

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