520.入浴の塔

 ロウリュ、お試し部屋。


 もうもうとサウナストーンから水蒸気が立ち上っている。


 アラサー冒険者は同僚の冒険者と一緒に汗を流していた。


「効くなぁ……これは」

「ああ、汗がバシバシ出てくるな」


 今のフレーバーは薄めの柑橘系である。

 すっきりとした香りが体に優しい。


「いやぁ、最初に聞いたときは全然イメージできなかったけど……」


 石を温めて水をかける?

 ……なぜ?


 正直、そんなところだったのだ。


「でも今はエルト様のお考えがよーくわかる。いやぁ、これはいいモノだ……」


 アラサー冒険者はうーんと体を伸ばす。


 ポプラの木で作られたベンチは、柔らかく熱を適度に和らげる。癒やし効果も抜群だ。


 土風呂が大地との一体化なら、ロウリュは火と水への感謝である。


 わけがわからないが、そんなフレーズが冒険者達の頭には浮かんでいた。


 アラサー冒険者は水分補給として用意された、オレンジジュースを一口飲み――。


「ただ、ひとつだけ問題があるな」


 きりっとした顔を作った。


「ロウリュに入ってから、土風呂に入るべきか。それとも土風呂に入ってからロウリュに来るべきか……!!」

「どんだけ入りたいんだ!?」

「いや、意外と重要だぜ! これは!」


 あははは! と顔を見せて笑い合う冒険者達であった。


 ◇


 それから数日。

 第2大樹の塔の内装と外装が終わり、お披露目の日になった。


 大樹の塔はドリアードの住処だけれど、こちらは純粋な商業施設だからな。

 着替え室やシャワー室、休憩室も必要だし。

 もちろん案内の看板類も必須である。


「いい出来だな……!」


 俺は第2大樹の塔を見上げた。

 外壁はややクリーム色、所々に滑車と台があり、モノを入れ替えするのも楽ちんである。


「これで完成ですかねー」


 土風呂拡張を呼びかけたテテトカも、ほくほく顔である。


「ああ、あとで皆で打ち上げをするつもりだ」


 今回もかなりの投資であったが、問題ない。

 春からの来客増で賄える。……はずだ。


「えへへー。土風呂も皆さんにたっくさん入ってもらえますー」

「そうだな。ロウリュにも人が並んでいるし」

「いいことですー」


 ロウリュの宣伝はザンザスでもやる予定だ。

 すでにザンザスの外からも問い合わせが来ているらしい。


 この地方に出稼ぎに来ているドワーフ達らしいが、本場に並ぶ評価を得られれば宣伝効果も大きい。


 魔導トロッコももう少しだし、色々と忙しくなってくるな……!


 なお、第2大樹の塔の名前は悩んだが――『入浴の塔』にした。

 ……スーパー銭湯みたいな感じだが、シンプルなので良しとしよう……。



領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 野球チーム名:ヴィレッジ・コカトニア

 特別施設:冒険者ギルド、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場、コカトリスボート係留所、たくさんの地下広場、ため池、入浴の塔

 総人口:263

 観光レベル:B(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理のレストラン、池と堤防、入浴の塔)

 漁業レベル:B(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁、マルデホタテ貝)

 牧場レベル:B(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス、ヒナコカトリス、海コカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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