476.ヴィクターの問い

 それから船の上での宴を終え、俺達は港へ戻った。

 村へと帰るのは明日になる。

 それまでは自由時間だな。


「ぴよぅ……」(おやすみぃ〜……)


 コカトリス達はお昼寝に入った。

 ……大広間でこんもりまとまっている。


「はぁ……海ぴよちゃん……」


 レイアはそんなコカトリス達をゆったり撫でながら、うっとりしていた。


 ちなみにナナも着ぐるみ姿で寝っ転がっている。


「…………」


 返事がない。お昼寝中のようだ。

 日中と海中で疲れがたまったのかもしれない。


「んむ。出発までゆっくりするんだぞ」

「そうだな……」


 そこへドアをノックする音がした。


「エルぴよ、いるか?」

「……博士」

「時間があるなら一人で来てほしい。話がある」


 奇遇だな。

 俺もちょっと話をしたいとは思っていた。


 家督のこと、家族のこと……。


 ヴィクターは他の兄2人よりも後継者に近いとされている。

 ちゃんとふたりきりで話さなければならない相手なのだ。


「わかった。すぐ行く」

「もちろん着ぐるみは着用だ。ここの屋上で待っている」


 ◇


 屋上は簡易なテラスになっていた。

 海が一望できる、絶好のロケーションだ。


 ヴィクターは優雅に座っていた。

 紅茶にストローが差してあり、それをくちばし部分へ突っ込んで飲んでいる。


「飲むのならグラスとストローはそこにあるぞ」

「ありがとう、だけど喉は乾いていない」


 ふたりきりなんだし、着ぐるみの頭を取ればいい――と言うのはやめておく。

 ヴィクターの性格上、絶対にそうはしないとわかる。


「まずは元気そうで何よりだ。中々、タイミングが悪くてな」

「それはこっちも同じだ。むしろ兄さんと会うと思っていなかった」


 実家でのヴィクターとの記憶はあまりない。

 俺が物心ついたときには、寄宿制の貴族院へと行っていたからな。


 時折、夏休みや冬休みに会ったくらい……それでも年齢が違いすぎた。


 それに家の中の扱いでも、ヴィクターは優遇されていた。今から思えば、少なくない執事やメイドがヴィクターを後継者だと思っていた。


 ヴィクターがグラスを静かに置く。


「話したいことは色々とあるが――そうだな。お前を試そう」


 ゆらりと魔力が立ち昇る。

 一瞬、冷たい風が通り抜けた。


「どうやってそこまで高めたのかは知らないが、驚嘆すべき魔力だ。素晴らしい。その点はもはや申し分ない」


 だから別のことでお前を試す――とヴィクターは続けた。


「俺と何を話したい? そうだな。1つだけ……今日は1つだけ、お前と話そう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る