473.マルデアコヤ貝のお土産

 真珠貝――前世の名前だとアコヤ貝と言ったか。

 思い出してきたぞ。


 だけど真珠を生み出す貝は無数にある。

 ハマグリでも真珠ができることもあるようだが……。


 とはいえ、目の前にあるのはもっとも有名な真珠貝のアコヤ貝らしかった。

 ……ちょっとぼんやり光っているみたいだ。


「それをくれる――ということですか?」


 ステラがじぃっと巨大リヴァイアサンを見つめる。


 リヴァイアサンは喋ることができない。

 しかしヒレをパタパタさせる動きは、なんとなくこちらに譲るような仕草に思えた。


「あのときのあなたは、もっと小さかったですが……無茶はしなくなった、ということでしょうか」


 ゆったりと巨大リヴァイアサンがステラに近寄る。

 ステラもそれに応じて、巨大リヴァイアサンの頭へと泳いでいった。


「ウゴ……」


 ……ごくり。


 リヴァイアサンは恐ろしい魔物と聞いていたが……やはり生き物ということか。

 星クラゲよりは、よほど意思があるように感じる。


 ステラはそっと巨大リヴァイアサンの頭へ手を乗せる。


「星クラゲは退治しましたよ。あなたも沖へとお帰りなさい……」

「まさか、こんな風になるとはな……」


 ヴィクターがぴここここと羽を動かしている。


 ……落ち着いて。

 俺の兄貴、落ち着いて……!


 巨大リヴァイアサンは目を閉じると、深く潜っていった。それを見送ったステラはぽつりと呟く。


「……そんなにわたしのことが、怖かったのでしょうか」


 ふむ……。


 ガチなときは割と怖い、かも。

 俺は胸の中で、ちょっとだけ思ったのであった。


 ◇


 貝はやはりアコヤ貝らしかった。

 その辺りから集めてきたのかな……?


 青白い貝殻がぼんやりと海の底で光っている。

 それをヴィクターがひとつ、手に持って頷いていた。


「普通は茶色の貝だが、どうやら……マルデ生物のようだな」

「普通の色じゃないものな。確かにちょっとだけ魔力がある」

「リヴァイアサンにとっては、おやつのようなものだろう。真珠があるかどうかは……開けてみないとわからんが」


 食用でもあるらしいが、思わぬお土産でもあった。

 風の魔法で貝を巻き上げてもらい、浮上する。


「ふぅ、やっと……終わりかな」


 ナナがやりきった声を出した。


「ああ、お疲れ様」

「海の中は慣れないね。早く陸の上でトマトジュースを浴びるほど飲みたいよ。ああ、トマトソーススパゲッティも食べたい」

「欲望がだだ漏れですわ」

「ウゴ、でも食べる気があるのは元気な証拠!」


 そうだな、無事に帰ってこられたんだ。

 色々と報告は必要だが、陸の上でゆっくりしたい気持ちは俺にもある。


 そうして、俺達はようやく数時間ぶりに海上へと戻って来たのであった。

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