435.近海のヌシ

 俺達にできる星クラゲへの対処はほぼ終わった。

 ……海面にたくさんの星クラゲがまだいるが、それは船乗り達に任せよう。


 ステラもやっと回転を止めた。


「ふぅ……! ほとんど、いなくなりましたね」

「ぴよ!」(すとっーぷ!)


 コカトリスも回転をやめる。

 かなりのドヤ顔だ。ぴよ的にも満足したらしい。


「よしよし、いい子です!」

「ぴよよ〜!」(たぷも回って燃えた感!)


 ステラがぽむぽむとコカトリスを撫でる。海中だが、毛並みはベタついていないらしい。

 マジカルボディだ。


「エルちゃんもお疲れ様でした! 結構、逃してたんですね……」


 海藻のカーテンには大量の星クラゲがひっかかっている。


「いや、後半はステラを避けてこっちに来てたからな。ある程度の危機回避能力はあるらしい」

「ウゴ、こっちでもそう! 網にかからなくなるやつがいた!」

「その辺りも検討しなくてはいけませんわね」

「そうだな。……とりあえず一旦、戻るか」


 海面では船が集まって星クラゲを引き上げている。

 海底から星クラゲはもう来ない。

 さしあたり、このポイントでの星クラゲは一段落したと見てもいいだろう。


 ◇


 船に上がると、ルイーゼが待ち構えていた。

 とりあえず海中で見た出来事を報告する。ジェシカからも話は行っていると思うが……念の為だ。


「……なるほどな。はぁ〜……凄い話になってきた」


 クロウズもやや前のめりになっている。


「頭に傷のある、大リヴァイアサン……それに海底神殿! なんと……」

「……何か知っているのか?」

「間違いありません、その大リヴァイアサンはこの近海のヌシでしょう。何百年も前から目撃情報があります」

「ああ、この辺りで最強の海の魔物だろーな」


 ルイーゼが重々しく頷く。


「ほうほう……」


 タオルで体を拭き終えたステラが素知らぬ顔をしている。でも耳がぴくぴく動いているな。


「でもあのヌシは、人や船には近付かないはずなんだがな……。そうだよな?」

「その通りです、ルイーゼ様。リヴァイアサンの群れを率いてはいますが、こちらとはあまり関わり合いにならない……。先代からもそう、聞いていますが」

「ほうほう……」


 ……。

 もしかして、それって……。


「それが人前に姿を見せて、神殿に案内した? よくわかんねーなー……」


 ……。


 俺がしゅっと羽を上げる。


「実はそのヌシ、前にステラが頭をぱっこーんしたリヴァイアサンらしいんだが」

「は?」

「えっ?」

「いつの話だよ、それ」


 ステラが観念したように答えた。


「……数百年前ですが……」


 ルイーゼとクロウズが顔を見合わせる。

 マジなの? という顔だ。


「まさか……そんなことが? しかし……」


 その時、ジェシカが船乗りの指導から戻ってくる。


「あのリヴァイアサンの妙な動きは、私も気になりましたわ。何らかの因縁があると考えれば……あり得ますわ」

「……だとすると、こーいうことか?」


 ルイーゼがステラをじっと見た。


「この近海のヌシに、トラウマを植え付けていた……と!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る