433.星クラゲの巣

 海の底に照らされて見えたのは、巨大な神殿だった。

 リヴァイアサンはゆらりとこちらを振り返りながら、そこへとまっすぐ進んでいく。


「……海底神殿か」

「海の底にこんなのがあるなんて……」

「驚きですわ」


 二人とも驚愕を隠さない。

 やはりこういうのは、この世界でも珍しいんだろうな。


「ぴよぴよー」(ふっしぎー……)


 コカトリスも目をぱちくりさせている。


「神殿が見えるが、あそこに――」


 と、リヴァイアサンがゆらっと向きを変えた。

 まっすぐ神殿に向かうのではなく、避けるような泳ぎ方になっている。


「ん?」

「神殿から……星クラゲです!」


 ステラの叫び声と同時に、神殿からぶわっと小さな黄色い光が溢れ出てきた。

 その数は……ぱっとわからない。それほど多い。


「大量にこっちに来ますわ!」

「くっ、あの神殿が星クラゲの巣窟にでもなっているのか……!」


 気が付くとリヴァイアサンはすでに加速して俺達から離れつつある。


「リヴァイアサンも去っていきますね」

「ここに案内するのが目的だったようだな」


 そう言っている間にも星クラゲがぶわぁっと現れる。


「ぴよー?」(どうするのー?)

「星クラゲはどのみち、討伐対象だ。ジェシカは船団に知らせてくれ。俺とステラで連れ回す」

「わかりましたわ!」


 ジェシカが離脱し、水中会話の魔法が途切れる。


「むふー」


 ステラが気合の入った顔でこちらを見る。

 俺はハンドサインで『時間稼ぎを』と伝えた。


 こくこく。


 ステラが頷いてバットを構える。


 俺達も徐々に浮かび上がっているので、すでに海底神殿は見えない。


 星クラゲの移動速度はそれほどでもないが……あの数、数千はいただろうか?

 海中だと距離や大きさがわかりづらいな。近くに山や家がないせいだろう。


 とりあえずあの海底神殿はかなりの大きさで、星クラゲの巣になっているということだ。


「ふぐー!」


 ステラが構えたバットを広げて、また回転体勢に入る。


 ……それって気軽に使える技なのか?

 わからん。


「ぴよよー!」(それ、つよそー!)


 えっ?


 コカトリスも羽を広げて、くるくると回りだした。


 ま、まさか……。


 あっという間にコカトリスも黄色い渦巻を生み出している。


「……!」(ぴよちゃん……!)


 なんだかステラが感動している雰囲気が伝わってくる。ステラも合わせてダブルで渦巻だな。


 ステラとコカトリスは十分な渦巻になったところで、星クラゲに向かっていく。


「ぴっぴよー!」(えーい!)


 ステラとコカトリスは回りながら星クラゲに突っ込んでは離脱してるな。体当たり戦法か。


 群れに突っ込むたびに、星クラゲは蹴散らされてダメージを受けているようだ。


 ちょっと前みたいに深くは踏み込んでいない。

 群れの表面をなぞるような動きだな。


 一方の俺は……。


 海藻のカーテンを作り、地道に進行を阻むことにした。

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