416.解析

 その頃、ヒールベリーの村。


 シュガーとナールは冒険者ギルドで書類仕事をしていた。採集や販売の数値をまとめているのである。


「いやぁ……結構量が多いっすね」

「んにゃ。本来はエルト様とステラが処理している分にゃ」


 村人の一部にしか知られていないが、書類仕事の面でもエルトとステラの貢献は大きい。

 二人とも計算も早いし、前の書類をよく覚えていて手際よく処理しているのだ。


「ステラは……まぁ、そうか。凄い速さで書類をめくってそう」

「んにゃ。しゅばばばって感じにゃ……」


 ステラの得意は肉体労働だけではない。おおよそ目と手を使うなら、なんでも超人レベルの速度でできる。


「二人がお帰りになるまで、頑張って書類を片付けるのにゃ……! 書類の山を残すのは、不本意なのにゃ!」

「おう! 俺も頑張るぜー!」


 二人は意気軒昂に仕事へ励む。

 遠くでコカトリスの鳴き声が聞こえる。


「ぴよっぴよー」(お散歩るんるんー)


 こうしてのどかなヒールベリーの村の一日は過ぎていくのであった……。


 ◇


 一方、レイア達は星クラゲ対策会議に出席していた。


「星クラゲは漂いながら魚を餌にします。特に魔力ある魚を好む性質があります」


 地図を前にきりっとした顔で発言するレイア。

 頭の上にはもちろん、宣伝兼私物のコカトリス帽子が乗っている。


 ルイーゼが黙認している以上、彼女の部下は何も言えない。

 ちらちらっとレイアとジェシカのぴよ帽子を見ることしかできないのだ。


「海中での出現から想定されるポイントは……」


 レイアはてきぱきと大きな地図を目の前に、星クラゲの生息域を上げていく。

 その様子をルイーゼとクロウズは静かに見守っていた。


「……よろしいのですか、ルイーゼ様?」


 クロウズがルイーゼへ小声で確認する。


「星クラゲはあたし達もよく知らねー。これだけ船を集めちまったんだ、成果は出さないといけねぇ。少し好きにやらせるさ」

「……確かに。リヴァイアサンの恐ろしさは船乗りなら誰もが知っていますが、星クラゲとなると……」


 星クラゲは本来、もっと深海にいる魔物である。

 海面にまで来ることは珍しい。来ても、数が少なければどうとでもなる。


「星クラゲとリヴァイアサンは深海において、均衡状態を保っていますわ。それが崩れた――今の状況はそういうことですわ」


 ジェシカがレイアの説明を引き継ぐ。

 百諸島の冒険者として、ジェシカの名前は知れていた。


 海のエキスパート、純然たる戦闘力でA級冒険者に成り上がった英雄である。

 その経歴と声には力があり、ルイーゼの部下達も耳を傾けざるを得ない。


 ルイーゼもふんふんと頷く。


「深海において、何かが起きた……。だからリヴァイアサンと星クラゲが沿岸にまで現れた。そういうことか?」

「恐らく。深海の魔力バランスが崩れているのかもですわ」

「ふむ……」


 そこに星クラゲの解析を終えたナナとヴィクター(二人とも着ぐるみ)が現れる。


「おっ、何かわかったか?」


 ルイーゼの言葉にヴィクターが羽をパタパタさせる。


「そこのぴよ同士の言う通りだ。通常の星クラゲよりも魔力係数が高い。……大繁殖は間違いないな」

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