409.入江の星

 一番最初に見えたリヴァイアサンがもっとも大きく、他の2匹は少し小さいか。

 黒いのと赤い頭、それに白い頭だ。本当に鯉がデカくなった魔物だな。


「……どうしますか?」

「少し様子を見よう。他にも隠れているのがいるかもしれない」


 その言葉にクロウズはびっくりした。


「もう確認も終わりましたし、引き上げても……ザー……」

「僕も様子見に賛成かな。ほら、向こうにもいる」


 ナナが俺のライトとは別方向を照らす。

 そこにはまたリヴァイアサンの尾ひれが映っていた。


「4匹もいる……!? ……これは――ザー……」


 クロウズの声は聞き取りづらいが、浮上する気配はない。

 その間にもリヴァイアサンの群れはぐるぐると回っている。


 さらにもう1匹、ライトに映った気がする。


「とりあえず5匹か……。かなり多いな」

「沖合とはいえこれほどいるなんて、想定外ですわ」

「そうですね……。いきなり戦闘状態に入るのは好ましくないかと」


 予定では可能な限り1匹ずつ、なるべく小分けにおびき寄せるはずだった。


 それがいきなり5匹は多すぎる。このまま戦闘になりリヴァイアサンが暴れれば、海面の小船はひとたまりもない。

 かなりの被害が出るだろう。


「……妙だな。リヴァイアサンの群れがこれほどとは……?」


 ヴィクターが水中で小首を傾げている。


「ウゴ、それに襲ってこないね。本だとかなり凶暴とか書いてあった」

「良い着眼点だ。恐らくリヴァイアサンはもうこちらに気が付いているが……。戦闘態勢ではないな」


 ちなみにヒールベリーのコカトリスは、ヴィクターの隣で垂直にとどまっている。

 どうやらぴよ博士のマネをしているようだ。


「ぴよ」(このポーズ、たぷが燃えるぜ)

「ぴよっぴよ」(垂直は筋肉を使う。ぴよ覚えた)


 多分、このポーズがダイエットにいいとかそんな感じか……。


 ヴィクターの言葉にステラが頷く。


「確かに空腹状態なら、この距離は襲ってきても不思議ではありません。しかし向こうもこちらの様子をうかがっているようですね」


 空腹……。そういえば、気になることがある。


「……この岩礁の上、そんなに食い荒らされてはなかったよな?」

「そうですね……綺麗でした。珊瑚も魚も、普通にいましたし……」


 妙だな。空腹のリヴァイアサンは何でも食い荒らして生態系を壊すはずだ。


 ということは、このリヴァイアサンは空腹ではない?

 あるいはたまたま、まだ食い散らかしてないだけなのだろうか。


「んん? ねぇ、アレを見て」


 ナナが羽をぴこぴこ動かす。


 そのライトの先を見ると……黄色い何かがふわふわと海中を浮かんでいる。


 それがいくつもいくつも、ナナのライトに映し出されていた。


「ぴよ?」(なかまじゃないよね?)

「ぴよ!」(色が似てるだけっぽい!)


 だんだんとその黄色い何かが増えてくる。


「リヴァイアサンが……潜って、避けている……?」


 ステラの呟きに俺は頷く。


 あのナナが照らしている何かが近付くにつれて、リヴァイアサンはライトから遠ざかっているようだ。


 明らかに黄色いアレらに反応した動きだ。


「……逃げているのか?」


 そして黄色い何かがはっきり見えてくる。

 クラゲだ。


 アレは……あの形は覚えがある。

 クラゲの魔物はゲームの中でも出てきたが、そのうちの一種類だ。


 傘が五角形で、触手が波打っている。

 きらきらと美しいがあの触手には猛毒がある。ゲームでも厄介な魔物だった。


 見た目のままの名前だが、そう――アレは星クラゲという魔物だ。

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