407.海中へ

 兵士達も甲板に武器を持って集まってきた。

 口には金属製のマスクをしている。


「あれが呼吸用のマスク魔道具か」


 見た目は結構ゴツいな。偏見だけどヒャッハーしてそうなマスクだ。


「ああ、でも使うのにコツがいる。長い訓練が必要なんだぜ」


 察するに、あのマスクをつけた兵士達は魔力がそんなにはないんだろうな。

 あればこの着ぐるみスーツの要領で潜水もやるはずだし。


「ウゴ、こっちは準備オッケー!」

「ばっちこいですわー!」


 村のメンバーで潜るのは俺、ステラ、ウッド、ナナ、ジェシカとダイエットに燃えるぴよ達だ。


「ぴよっ!」(準備体操は万全です!)

「ぴよよー!」(関節がぐりぐり動くのだ!)


 パタパタパタと羽を動かしている。

 ……滑らかな動きだ。


「んじゃ、行くよー」


 ナナは着ぐるみを信頼しきっているのか、肩に力は入っていない。


 ヴィクターもパタパタと手を動かす。手をほぐしているみたいだな。


「俺も同行しよう」

「……いいのか?」

「心配するな。潜水機能はバッチリだ。海コカトリス観察用の着ぐるみだから」


 他にも着ぐるみがあるような口振りだな。深くは問わないでおくが。


「よし……行くか!」

「はい! ぴよちゃん達を救うために!」

「気を付けてだぞ!」

「いってらっしゃいぴよー!」


 ディアとマルコシアスに見送られ、俺達は海へと潜っていく。


 ……大丈夫。

 俺もこの着ぐるみは信頼している。


 ◇


 綺麗だ。

 それが海の中の第一印象だった。


 岩礁には赤い珊瑚、カラフルな熱帯魚が海を泳いでいる。


 スキューバダイビングではないが、シンプルに美しい。


「びよっ!」(こっちだよー!)


 岩場のリーダーコカトリスが羽をツンツンと伸ばしてる。


 というか、思い切り水中で鳴き声を出しているが……問題ないのか?


「ぐっ!」


 ステラが微笑みながら俺の目の前でオッケーとサインする。


「海の歌姫!」

「……あれ?」


 声が聞こえる。水の中なのに……。


「どうでしょう、これで少しは……」


 ちょっと聞こえづらいが、ちゃんとわかる。

 水中で会話する魔法か。俺の知らない魔法だ。


「こんな魔法があったのか?」

「新しい魔法ですが、それなりに使えますですわ。でも私から離れると感度が悪くなるので、お気を付けて」


 これはステラの水上歩行と同じ、この世界オリジナルの魔法だな。

 ゲームの中ではチャットや外部ツールがあるので、こういう魔法は意味がない。


 なるほど……結構便利だ。


 ヴィクターが泳ぎながらふむふむと頷いている。


「この魔法は百諸島秘伝の魔法だな。話には聞いたことがあるが、ふむふむ……」

「な、内密! 内密ですわ!」

「失礼。研究者の性でね。で、この魔法を金貨百枚で売ってくれないか?」

「駄目ですわ!」


 そうか、これはそういう類の魔法か……。

 確かに優れた魔法はアドバンテージだからな。秘匿する類の魔法だったか。


「ウゴ、でもこれで意思疎通は楽になったね!」

「ウッドも塩水は大丈夫か?」

「ウゴウゴ……大丈夫! 家のお風呂で塩水テストはしたし!」


 こちらも良さそうだな。

 あとは――。


「ぴよよー!」(きれれー!)

「ぴよっぴよー!」(燃える、たぷが燃えるのを感じるー!)


 ヒールベリーのコカトリスも目を輝かせて泳いでいる。


 よし、更に深く潜っていこうか。

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