393.百年の港

 しかし、もう来てしまったものは仕方ない。

 クロウズのこめかみがぴくぴくしてる。


 ルイーゼとクロウズは黄色いテントに行き、少し話し合いをするようだった。


「いっちゃったぴよ」

「お話し合いなんだぞ」

「きっとぴよちゃんの寝る場所とかのことですね。けっこう大きい子ですし」


 ちなみに今回来たコカトリスニ体は、俺やステラと同じくらいの背丈である。

 横幅は俺達よりかなり大きいが……。


 でも話し合いの内容はそれ以前の気がする。


「ぴよ」

「ぴよ」

「はぁ……うっとりです」


 レイアはコカトリスの間に挟まっていた。

 俺が『ぴよサンド』と心の中で呼んでいる光景だ。


 それを見ているクロウズの従者は、この世の終わりに直面したような顔をしている。


 ふむ……それに比べると俺とナナはスルーだな。

 やはり着ぐるみのほうがメジャーなのか……。


「よう、待たせたな」

「…………」


 爽やかなルイーゼと眉を寄せているクロウズがテントから出てきた。

 どうやらルイーゼの言い分が通ったらしい。


 ルイーゼは腕を振り上げ、ついてくるよう合図する。


「んじゃ、港へは歩いて行くぜ。はぐれないようにな」


 ◇


 空き地から港へは、平らな道を少し行くだけで到着できた。

 いよいよ夕方になり、斜陽が港町を照らしている。


 レンガ造りの建物が並び、人にも物にも活況がある。

 ……住人らしき人からは思い切り注目されているな。


 まぁ、この集団なら当然か……ルイーゼのお膝元で、ウッドとコカトリスは目立つからな。

 多分、俺もだが。


 ナナはルイーゼの隣で、なにやら話をしている。

 公的な場所で対等に話せるのは、ナナだけだからな。


 俺は謎の着ぐるみなので、自重する。


「泊まる場所は?」

「騎士用の宿泊所がある。そこそこ綺麗だし、設備も揃ってるぜ」

「……頼んであった、着ぐるみ丸洗い洗濯機は?」


 ナナがずいっと身を乗り出す。

 そんなの頼んでたのか。


「顔を近づけんな! 取り寄せたよ!」

「やるじゃん。ありがとう」


 俺はステラの横をぽよぽよと歩いている。

 胸元にはディアとマルコシアスだ。


「これ、全部レンガぴよ?」

「そうなんだぞ。頑張って積んだんだぞ」

「けっこう歴史を感じさせる建物が多いですね。長年、日や潮風に晒されているような……」

「ウゴ、色合いがちょっと違うね!」


 ウッドの言う通りだ。

 かなり古ぼけた家もけっこうある。


「百年前くらいに、この街は出来たんだったか……。それから大禍はないようだし、その当時の建物が残っているんだろう」


 俺の言葉に、近くを歩くクロウズが反応する。


「よくご存知で。この街はまさにライガー家の重みを体現するのです」


 その言葉には確かな自負が感じられた。

 俺はその自負に少し乗ることにする。


 本で読めることには限界があるしな。

 当事者から聞くのも、大いに学びになる。


 ディアやマルコシアス、ウッドの教育にもなるだろう。


「良ければ少し解説してくれないか? 海は久しぶりなものでな」


 この世界では初めてだけど……まぁ、いい。

 でも俺の言葉はクロウズにとっても良いものであったようだ。顔がやや緩む。


「喜んで」

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