382.カボチャを所望します

 出発前、星が輝く夜のこと。


 大樹の塔にはお留守番組が集まって、わいわいと会議をしていた。


 アナリアが気合十分と言った顔で、


「ポーションの在庫は万端ですが、もう少し欲しいところですね。明日からちょーっと頑張ってさらに在庫を積み増しします!」

「にゃ。あちしらも連絡網を密にしてるにゃ……! 対処マニュアルも完璧にゃ!」


 ナールもぐっと身を乗り出している。

 初めてエルトがいない状況が来るのだ。ここで失敗するわけには行かない。


 任されたからには、満点を。

 それがアナリアとナールだった。


「いいですね! シュガーとハットリのほうは!?」

「武器と馬の手入れは怠ってねぇぜ。ドラゴンが数匹来ても大丈夫だ」

「うむ。ザンザスとの連携も問題なしでござる。相互にサポートする体制になっているでござるよ」

「頼もしいにゃ。さすが王国でも有数の冒険者ギルドにゃ」


 そして視線は最後の一組に向けられる。

 その先にはテテトカがいた。


 夜なので半分眠そうだが、声はしっかりしている。


「農作物とぴよちゃんは任せてー」

「ぴよ!」(お腹空きました!)


 テテトカの隣には代表ぴよが座っていた。

 フラワーアーチャーから助けられた姉妹ぴよの姉である。ちょっととぼけているほうだ。


 ハットリが軽く身を乗り出す。


「……何と言ったのでござるか?」

「任せて、と言ったんだよー」

「それは頼もしいでござるな……!」


 テテトカにはぴよ語自動解釈能力がある。

 コカトリスの台詞を当たり障りのない言葉に変換する能力だ。


 嘘ではない。あくまで解釈なのだ。

 コカトリスの台詞は極めて難解で、直訳はときに誤解と混乱を招きかねない。

 それを防ぐための措置である。


 姉コカトリスも、この集まりが何なのかはよく理解できていない。

 何だか視線が集まっていることはわかっているのだが。


 何か言わなくては……!

 姉ぴよはそんな焦りを感じた。


 ちなみに代表ぴよはジャンケンで決まったのだ。

 テテトカはそのことも知っていたが、あえて言わなかった。


「ぴよ」(夜ご飯はカボチャを所望します……!)


 テテトカが秒で答えを弾き出す。


「ご飯を守るために頑張るってー」

「にゃ……。ありがたい話にゃ。コカトリスも留守番に意欲を燃やしているのにゃ」

「ええ、そのようですね」

「ぴよ、ぴよよ〜」(何か行き違いがありそうだけど、まぁいっか〜)


 ぴよぴよ。

 コカトリスは物事を深く考えない。

 コカトリスは江戸っ子に似ているのだ。宵越しの銭は持たないのである。


「コカトリスもいるとなれば、何が来ても大丈夫でござるな!」

「ぴよちゃんはこう見えてパワフルですからね……!」

「お留守番は楽勝にゃ!」


 だがシュガーだけは首を傾げていた。

 口には出さないが。


(……何か、違うことを考えているような顔なんだけどな……?)


 彼はこの中で一番コカトリスと顔を合わせている。

 ザンザスのダンジョン、それに土風呂から眺めるぴよ農作業等々。


 その勘が告げている。

 この姉ぴよはお腹が空いていると。


「ぴよ……!」(ジャガイモも食べたくなってきた……!)


 テテトカはふむと頷くと、一同に言う。


「続きは何か食べながらにしない? カボチャとジャガイモがいいなー」


 テテトカの言葉に一同賛成する。


「いいですね! つまみながら話し合いをしましょうか!」


 世の中にはそう、誤解のままのほうが良いこともある。


 草だんごをこねこねしながら、テテトカはそんなことを思うのであった。

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