377.試運転

 それから数日後。

 ルイーゼが来るのが迫っていた。


 俺は今、ナナの工房にいる。

 ……着ぐるみのテストのために。


 俺は早速、コカトリス着ぐるみを装着していた。


「ぴよ……」

「いいですね! その小首を傾げる感じが――ちょっとあざとくてグッドです……!」


 これはステラ。


「腰を少し振って頂いても宜しいでしょうか? そうです、どうでしょうか? 見る限り、とても『らぶりー』ですが……調整は要りそうですか?」


 これはレイア。


「頭にリボンを着けてみたよ。これで中身を推測させない効果もアップのはずさ」


 これはナナ。


 ナナとレイアが用意してくれた着ぐるみは、丸みを帯びてリボンが付属していた。


 中は意外と快適である。

 視界が狭い以外、息苦しくもない。


「魔力があると快適度は全然違うんだよね。呼吸や温度も調整できるし」

「そのようだな。驚いた……」


 腕と腰、足回りもフィットしている。


 ぐっぐっと手を開いたり閉じたり、後ろを振り向いてみたりも問題ない。


 スーツみたいな……不思議な感じだ。


「一通りの耐性も持たせたから、戦闘も大丈夫だよ」

「ありがとう……ナナ」


 リボンは趣味っぽいが、思うだけにする。

 職人とはときにこだわらないと生きていけないものだからな。


 ステラがうきうきしながら、俺のもふっと腕を握る。


「では歩いてみましょうか……!」

「そうだな」


 ステラに手を引いてもらいながら、歩く。


 ふにふに。

 ふにふにふに。


 歩くたびに床が可愛く鳴るな……。

 しかしちゃんと歩けている。

 視界の狭さは慣れるしかないが。


「大丈夫そうですね、キュートです!」


 俺の後ろについて来たレイアがお墨付きをくれる。


「動きやすいな。歩くのに支障はなさそうだ」


 俺の言葉にステラも頷く。


「少しここで試運転して、あとは家でもやってみましょうか」

「そうだな。階段とか試したいし」

「何か不具合があったら言ってね。パーツはあるから」

「ザンザスからも取り寄せていますからね!」


 やはり、かなりのやる気だな。


「ありがとう、そうさせてもらうよ」


 ◇


 まだ外を移動するときは、普通に着ぐるみを脱ぐ。

 もちろん近いうちに野外でもテストしたいが。


 着ぐるみを入れる用のキャリーケースも用意してあるのはさすがだ。

 帰宅後、再び着ぐるみを身につける。


 もふっとな。


「ぴよよー! いいぴよねー!」

「もこもこなんだぞ!」

「ウゴ、可愛らしい……!」

「ありがとう、皆」


 家族からも好評なようだな。


 さて、さっきは出来なかったこと……そうだな。

 まずはソファーに座ってみる。


 ……ふに。


「おお、ちゃんと座れる」


 膝と腰が曲がるというか、柔らかい。


「寝袋にもなりますからね。柔軟性はありますし――それにヴァンパイアは着ぐるみをきたまま、日中は日常生活を営みますので」

「そうだな、ナナもそうしてるし……」


 そんな俺の膝の上に、ディアとマルコシアスがぴょんと飛び乗ってくる。


「ふにふにしてるぴよねー!」

「中々の触り心地なんだぞ」


 すりすり。

 体を寄せてくる二人を撫で撫でする。


「いいな、眠くなりそうだ」


 着ぐるみの中は快適で、ほかほかしてる。

 こうしていると眠気が出てくる。


 と、ステラがすっと台所に行った。


「この辺りもテストが必要かなと……!」


 戻ってきたステラの手には、コップに太めのストローが差してある。


 まさか……。


「れっつ、チャレンジです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る