376.同行、召集

「でもどうして、海に行きたいと思ったんだ?」


 そこの所は確かめておこう。

 ……なんとなくコカトリス主導だと察しはつくが。


 俺の言葉をララトマが翻訳してくれる。


「ぴよよ……!」(たぷを減らしたい……!)

「ぴよー!」(スイミングすると聞いて!)

「と、いうことです」

「ダイエットだぞ」

「ダイエットですね……」


 ダイエットだな……。


 コカトリスはきりっとしている。

 真面目な理由は理由かもしれないが。


「ウゴ、ララトマも来るのは……コカトリスのため?」

「そうです。私はこの子をよく知ってますです」

「ふむ……ということは目が光るほうのコカトリスか」


 俺の言葉をまた翻訳する。

 そうするとコカトリスはぷよんと意気込んだ。


「ぴよー!」(光るよー!)

「ぴよ!」(きらりん!)


 ぺかー!


 コカトリスの目が物凄く光る。


「割とまぶしいんだぞ」

「わかった、もう大丈夫だ……」


 コカトリスの目の光が消える。

 この体の仕組みも謎だが、考えると便利だよな。

 地下通路でもよく見えたし。


「水の中でもこの光は頼りになりそうだな」

「そうですね、ちょっと潜られると水の中は見えませんから」

「ウゴ、じゃあ……?」

「ルイーゼに確認は必要だが、俺はいいと思う。ララトマはディアとマルシスと後方に待機。コカトリスは戦闘要員でも……どうだろう?」

「キノコ狩りのおかげぴよ!」

「そうだな、並の魔物では全く相手にならないし」


 地下通路の探索でコカトリスは力を示したと言える。


「私も……いいです?」

「村の外に行きたいんだろう?」


 多分、俺の知る限り初めてだ。

 ドリアードが村の外に出たいと意思表示するのは。


 テテトカも他のドリアードも、村の外にほとんど興味を持っていない。

 確かに花飾りや釣り、土や水で外界を認識してはいる。


 しかし、それ以上の行動や接近の意欲は見られない。


 その中でララトマはドリアードでも特異だ。

 ウッドを好きになってくれた。


 それがきっとララトマも変えたのだろう。

 俺はそれを好ましく思っている。


「はい、行ってみたいです」

「それを俺は尊重するよ」

「ウゴウゴ……!」


 ぱぁっとララトマが笑顔になる。


「やりましたです!」

「ウゴウゴ、一緒に海だ!」


 ディアもマルコシアスもうんうんと頷いている。


「旅は多いほうがいいぴよね!」

「砂浜でダッシュだぞ!」


 ステラも微笑んでいる。

 ドリアードのことについて、俺と同じことを思っているのだろう。


「わたしも良いと思います。いい機会になるかと」

「ありがとう……。そういえば、元々の目的が魔物退治とは知ってるんだよな?」


 コカトリスもぴよっぴと羽を上げる。


「ぴよ!」(なんとなく!)

「ぴよっぴ!」(うすぼんやりと!)


 ……やっぱりそうか。

 まぁ……これから打ち合わせすれば大丈夫か。


 ◇


 一方、リヴァイアサン討伐が行われる予定の港では、急ピッチで受け入れ準備が進んでいた。


 数百の宿舎、戦闘要員だけで千人を超える規模を動員する大計画である。


 桟橋には船も続々と集まっていた。

 夕日に照らされ、なんとも言えない風情がある。


 ルイーゼはこの光景が好きだった。

 彼女はふよふよとあぐらをかいて空に浮きながら、その準備を監督している。


「中々の威容になってきたじゃん」


 ルイーゼの隣に控える海上部隊の長、クロウズは厳しい目をして前方の主を見つめている。


 クロウズはライガー家の重臣にして、随一の船乗りでもあった。

 潮風に焼かれた肌、歴戦の騎士でもあったクロウズは低めの声で語る。


「ルイーゼ様、よそ者を戦力に加えるとは本気ですか?」

「不満か、クロウズ」


 ルイーゼにとっては十年を超える付き合いでもある。

 この程度の苦言や諫言はルイーゼは慣れっこであった。


「我々には我々のやり方があります。現に部下からも不満の声が。役立たずは船には不要です。古い時代には、無能な船員を海に投げ込むことさえあったのですから」

「とはいえ、ウチラだけでリヴァイアサンの群れを退治するのは時間がかかりすぎる」

「それは左様ですが」


 ルイーゼの独断専行はいつものこと。それでも直言するのがクロウズだったが。


 大型船が一隻、港に近づいてくる。

 波間を切り裂く様子は、まさに貴族の威厳を示していた。


 この船はライガー家の擁する船の中でも、三指に入る大型の軍船である。

 クロウズにとっても思い入れのある船だ。

 ルイーゼはそれによそ者を乗せようとしているのだった。


「……かの船は我らの誇りです。船員の気も荒い。乗せるのは一流の船乗りだけ。それはお忘れなきように」

「あの船がウチラの誇りなのは、わかっている」


 かの大型船は、この海域で名高い守護聖人の名を継いでいる。

 この周辺の船乗りは皆、その守護聖人を崇めて模範としているのだ。


 勇猛果敢で、迷いなく魔物を討つ。

 武勇を極めて驕らず。


 伝説では数時間も海に潜ってリヴァイアサンと戦ったという。


 この大型船の名前はスティーブン号。


 ……その守護聖人の詳細は明らかではないが、それは重要ではないのであった。

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