375.同行依頼
……ところで。
ディアはコカトリスだから、水は平気だろう。
なにせ深海ぴよもいるそうだし……。
ステラはそこで木桶の水に顔をつけて、もうすぐ一時間になる。
「大丈夫ぴよ?」
たまに声を掛けられると、ステラは腕を動かして意思表示する。
ぐっ!
華麗にサムズアップしてくれるのだ。
さっきは人差し指と親指で丸を作っていたな。
つまり大丈夫なわけだ。
ウッドも種族的に問題ない。
塩水も平気なんだよな。
最後は……マルコシアスか。
そのマルコシアスは俺の膝の上にいる。
「父上の毛づくろい、気持ちいいんだぞ」
「よしよし……」
しっとり毛並みをさわさわしているのだ。
触っている俺も気持ちいい。
「……マルコシアスは泳げるのか? 前に湖の上を走っていたが……」
「無理なんだぞ」
マルコシアスはあっさり言い切った。
ぴょこっと小さな脚をこちらに向ける。
「お手手、小さいんだぞ……!」
「いや、少女の姿なら――」
「二足歩行は負けフラグなんだぞ……!?」
「お、おう……」
興味本位で聞いただけだが、マルコシアスの意志は固そうだな。
「我は砂浜で走り回りたいんだぞ。砂のお城を作って、ひなたぼっこするんだぞ」
「砂浜、それもあったか……」
なでなで。
もちろん討伐はお仕事だが、家族旅行も兼ねているからな。
この辺りに砂浜もないし、こういう機会は貴重である。
「そろそろ一時間ぴよね……」
「ウゴ、本当に呼吸できてる……」
そしてぴったり一時間が経過した瞬間――ステラががばっと顔を上げる。
「ぷはー……! どうです? ちゃんとできてました?」
「きっちり一時間水に浸かってたな……」
「母上、生還だぞ」
「まだまだ余裕ですよ……!」
本当に余裕そうだ。
これだと生身で深海ダイブとかも出来ちゃうんだろうな。
そんなことを思っていると、玄関からノックの音がする。
トントン。
「ぴよ」
「ぴよぴよ」
……ん?
「仲間ぴよ!」
「なにかあったのでしょうか?」
うーん、でもコカトリスならノックせずに『ぴよっぴ!』とかのはずだ。
……誰だろう。
◇
扉を開いて入ってきたのは、コカトリス二体とララトマだった。
ぷよぷよと体を揺らして、コカトリス二体が入ってくる。
ちょっとたぷり気味かもしれない。
「「ぴよぴー」」(お邪魔しまーす)
ララトマはなんだか緊張した面持ちだった。
「すみません、失礼しますです!」
「何かあったのか?」
俺がリビングに通して問いかけると、ララトマはちらっとウッドを見た。
「ウゴ……?」
しかしウッドは首を傾げるだけ。
「ぴよー」(頼み事があるのー)
「頼み事があるみたいぴよねー」
タオルで顔を拭いたステラが、俺に続けて聞く。
「どのようなことでしょうね」
「少し予想がつくんだぞ」
ララトマは意を決したか、ぐっと身を乗り出した。
「……実はです。私とコカトリス二体を海に連れて行って欲しくて……!」
……おおう。
それは思ってもみなかったな。
どうなんだ、それは?
俺は頭をフル回転させる。
――悪くはない気がするな。
コカトリスはあのパズルマッシュルームでも十分過ぎるほど戦力になったのだ。
一緒に行けるなら、まず足手まといにはならないだろう。
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